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ポケットの中に世界

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 まあね、やばいと思わなかった訳じゃないよ俺だって。けど雨に足止め食らった駅でさ、ホームレスのおっさんから聞かされるギャグにしては、そこそこ気が利いてると思わない?
 で、まあ雨はなかなか止まないしさ、こっちから話し掛けちゃった手前、適当に相槌打ってみたんだわ。その頃の俺にしてみたらなんであんな怪しげなおっさんと会話なんか始めちゃったのか、今でもちょっと不思議なんだけどね。
 「世界っすか…そんなもんポケットに入れてたら重たくないですか?」
 「いや、入れてみりゃ判るが、慣れれば大したことねえよ。まあ誰かがしっかりしまっとかんといけないもんだしな、こういうのは」
 「はあ…そんなもんすかねえ。…じゃあ落っことしちゃったりしたらどうなるんですか?」
 「……そんな恐ろしいことは考えたくもねえな」
 ここでそのおっさんは1度言葉を切って、
 「ただな…見りゃ判ると思うが、この背広もいいかげんくたびれてきてな。ここんとこがほつれてきてんだよ」
 っつって裏返ってるポケットの底を指差したんだよな。
 「これで穴でも空いたら其処からこぼれちまう」
 「はあ、大変ですねえ」
 これで大体予想は付くだろ?で、予想通りおっさんが云う訳だ。
 「あんた、ちょっとの間でいいから、俺の代わりにあんたのポケットに『世界』を預けさせてくれないか。なに、俺がこいつを繕ってくるまででいい。こういうのはちょっとそこらに置いとけるもんでもねえからな」ってさ。
 俺もいい加減悪乗りしてたんだろうな。「そんな簡単に移し替えたりできるもんなんですかあ?」とか何とか云いながら、おっさんの云う通りに左のポケット裏返して。適当に相手して「はい預かりましたよ」とでも云っとけばそれでお終いだと思ってたんだが。
 「よいしょっと」
 なんて掛け声掛けておっさんが自分のポケットを中にしまった瞬間、
作品名:ポケットの中に世界 作家名:シダタクマ