存在の耐えられない軽さ
<ナイモノネダリ>
足りない言葉を 補いたい
未熟な身体を 壊したい
欲しいモノばっか この世界
いらないモノばっか この世界
<説教>
歌を忘れた カナリアが
勿体ぶった 口ぶりで こう説くよ
「あなたの 隣人を 愛しなさない」
誰より 愛より 遠い瞳で
誰より 何より 凍えた心で
<パラドックス>
どうしてだろう?
負けるものか、と 強く歯を食い縛るたび
大事な 何かが 削ぎ落とされていくよう
大事な 何かが ひび割れていくよう
そして残った 確かで 不確かな
冷たい「強さ」と言う ヨロイの下で
剥き出しの神経が ヒリヒリと震える
私の弱さを 責めながら
<とっかかり>
始めから 掛け間違えた ボタンみたい
一度 チャラにしなけりゃ やり直せない
<夜の猫>
夜の猫の 瞳は 優しい
闇を孕んで 豊かな眼差し
光を 遠ざけて
広がる その黒々とした 光彩
夜の猫の 瞳は 優しい
雄弁に 何かを 物語りながら
寡黙に 何かを 押し隠しながら
夜の猫の 瞳は 深い
<終焉の時>
答えの出ない問いを 繰り返す 何度も
結論の出ない戦いを 続けて行く この先も
あなたは 私を 救えない
私が あなたを 守れない
わかりきった絶望は アメ玉のように 甘いね
壊れるほどに 抱き締めていて
いつか 誰かに この魂を返しに行く
その時まで せめて
<ヒトへの哀歌>
夜を 彷徨う 鳥になる
羽根を 無くした 蝶になる
美しくなければ 在るだけの
必要な何かも 貰えない
光を 閉ざした星になる
痛みを 忘れた ヒトになる
<予言者と罪と>
空は 見えない無数の穴を 抱えて広がり
水は 見えない毒を 底に沈めて輝く
土は 惨劇による血と 炎とに炙られ
海は 流し込まれる薬液に 紅くむせぶ
何て事はない
極地の氷は ”自然の摂理”で 溶けだしただけ
私達を裁くのは きっと 積み重ねたエゴの果て
本当は 私達は もしかしたら
あの日 あの時 伝説の予言者の通りに
滅びてしまいたかったのかもしれません
<言霊>
言葉が どんどん軽くなる
”愛”も ”痛み”も ”哀しみ”も
重さを失って 宙へ浮く
確かにね 『軽い方』が 運びやすいけど
デジタルの波に乗って まっしぐら
ドコのダレにでも 容易く届くけど
あんまり便利で 軽いばっかりだと
ヒトの心にまで 落ちてこないんじゃないの?
フワフワ フワフワ 空に漂ったまま
<毒>
「あなたの為だ」と言う言葉は
蜜のように 甘い
甘くて 甘くて そして『毒』
<存在の耐えられない軽さ>
私である必要などなかった
あなたである必要などなかった
けれど
私でなければいけなかった
あなたでなければいけなかった
Fin
作品名:存在の耐えられない軽さ 作家名:ルギ