ニードミーのルール(仮)
「これ。俺が毎日つけたバスケ部の活動内容レポートと、一年部員に強力してもらった無記名のアンケートの集計だ。レポートはでっちあげだと思われないようにしっかりアナログ機器で録画もしてある。なんなら見るか?」
「お前ら……プライバシーの侵害だ」
「勿論これらの複製はありませんし、今回の件が終われば破棄することになっています。顧問の先生と校長先生には許可を取っていますが、そちらも確認なさいますか」
「私達は単なるサポートに過ぎません」
「部活が強くなるならないは元々所属する部員の皆さんが作っていくものです。手を抜いていれば力もつきませんし、絆を深めていかなければ団結力も出来ません。私達は部活を円滑に進めるためのヒントを与えるだけで、それを生かすも殺すも、全ては部員ないし部活のあり方に関わってくるんですよ」
「では、最後にひとつだけ、助言を」
「向上心のない部活は衰えるだけだ。変えたいなら自分達が変わらなければ意味が無い」
ただし、変われるのなら、だけれど。
*
震える手で鍵を開けようとして、ドアノブを回して首を傾げる。鍵は開いたのに戸が開かない。
それにこれは、何かが引っかかっているというよりは、誰かが抑えているような。
「立ち入れないとは言ったけど」
「手伝わないとは言ってないよ、リコちゃん」
「真都原先輩!」
「今日は第二土曜で、写真部の活動はないはずだね?」
「それとも、部室に何か用事?忘れ物なら昨日取りに来ればよかったじゃないか。部活はなくとも、学校は普通にあったんだから、他に誰かいたかもしれない。少なくとも、今日よりは人の居る確立は高かったはずだね」
「それに、こんなこと女の子ひとりじゃ危ない」
「でも――」
「真都原か?」
「どうしたこんな所で。それに、そっちの一年はウチの部員の」
「うん。ちょっとこの子に用事があってね。お借りしてもいいかな」
「なんだよ、部活部が関わってんのか」
「部活のトラブルに部活部あり、だよ」
「そろそろ本当のことを聞かせてもらおうかな」
真摯な瞳が莉子を見つめ返す。当たり前の質問だった。既に存在するものを消すということは、それが大きいものであればあるほど『なんとなく』では済まされない。
二人の視線の合間に、沙倉の助言が割って入る。
「肌に合わない場所なら関わらなければいい。納得行く場所なら、うちで紹介するけど」
「私達の誠意は伝わらなかった? わざわざキミの前でバスケ部の御沙汰を披露したんだけど、足りなかったかな」
「違うんです」
「私は私で、心の整理を付けたかった」
「あ、あの、この間は失礼なこと言っちゃって」
「大丈夫だよ」
*
「どうしてあいつが、この部活を作ったのか知ってる?」
「別にさ、部活をサポートするなら他にも手段はあるじゃない? 執行部に入るとか、運営委員に入るとかさ。アキならきっと生徒会長だってなれたと思う。でも、あいつはそうしなかった。どうしてだと思う?」
「ここにいる理由を、作りたかったんだって」
「あいつ自身は別にそんなものいらなかった。だけど、周りが持ってないものを欲しがるから」
「アキが、お兄さんを苦手にしてるのは知ってるよね?」
「あれ、反動なんだ」
「学年トップで生徒会長で、生徒教師共に人望厚い、身内からも希望の星の兄。そして一つ下の自分。俺から見ると、アキも充分デキる奴の部類だ。だけど兄の光が強すぎて霞んでしまう。なのに、周りはそれと同等かそれ以上のものを求める。求めておいて、『やっぱり妹さんだから』なんて苦笑いされる」
「アキは苦しいなんて言わなかった。違うな。何も言わなかった。いつのまにか膨れ上がったそれを、ひとりで全部抱え込んでた。自分は兄に劣る駄目なやつだって」
俺は、ずっと見てきたから。
「本当はさ、見てないで言ってやるべきなんだろうけど。――でも、俺が言わなくても、アキは自分で気付いた。というか、開き直ったんだ」
「そんなに必要なら、作ればいい。見えないから不安なのだから、自分の居る場所を、居ていい場所を。それが本当は他人から必要とされていないとしても。自分を納得させるために」
「自分を、納得させるために……」
「ごめんね、ちょっと狭いけど、少しの間だから我慢してね」
「もしかして、真戸原さんって……女の人なんですか!?」
「もしかしなくてもそうなんだけど」
「どうしてかな。普通にしてるのに男子と間違われるんだよね」
今振り返ると、一人称が『私』だった気がする。
「背が高いからじゃない? あたしは別にアキちゃんが男の子でも好きだけどね」
「そうかそうか。ありがとうタカちゃん」
「それで、これからどうするの?」
「写真部には戻れないかな。戻るつもりもないですし」
「じゃあさ。私に良い案があるんだけど、聞いたりしないかな」
続く
作品名:ニードミーのルール(仮) 作家名:篠宮あさと