閑話休題
そこに愛はなかったか。
問われると戸惑うが、しかし十年物の愛はもはや愛ではなく、なにか名前の付けがたい緩やかな感情になってた。私はそれを愛とは認識していなかったし、おそらく彼も場の雰囲気と、ちょっとお酒を舐めたゆるい衝動で云ってしまったのだろう。
「好きだった」
言葉にするとこれほど陳腐なものなのか。
他人事のようにその言葉を聞いて、それからすぐ状況を飲み込み、絶望した。
なぜその言葉を今紡ぐのだろう、という非難は無粋だろうけど、でも、それ以外言葉は無かった。
だってその言葉が私を、あの十年前のであった頃―何も持たない十代の少女に変えてしまったから。
「・・・なんで今更そういうこと云う?」
顔は見ない。泣くかも知れないし、下手したら殴るかもしれないと、酒に酔った信用できない自分のことを思ったからだ。相手もそうなのだろう。こちらを見ることはなく、グラスを傾けて、それからお絞りで手を拭いた。
「ノリと・・・勢い?」
ああ、これだ。この、真摯でいてお調子者な感じに、私は引っかかってしまったのだ。過去の自分を思い出す。
結局そこにいたのは、二十代の男女ではなく、夢がまだ夢であった高校生だった。