電話
「もしもし、起きてた?」
「うん、どうしたの?」
その問いはもっともなもので、しかし正当であるがゆえに戸惑いを生じさせた。
「なんかさ、不思議に思って」
そう、世の中にたくさん不思議なことはある。なぜ恐竜は絶滅したのか。人は死んだらどこにいくのか。神さまはいるのか。宇宙は本当に広がっているのか・・・。
でも一番身近な不思議は、どうして好きなのにそばにいられないのかということだ。云ったら笑われるから、云わないけど。
手を伸ばせばじゃない。指を伸ばせば触れ合えるような近さに、たしかにその熱はあったはずなのに、今は冷え切った床に一人でごろりと転がっている。
まあ、そんな状況すら知らないだろうけど。
「いつ会えるかな?」
「いつだろうね」
あいまいに答えて笑って。生きているのに、同じ空の下にいるのに。それじゃ満足できない自分が悪いのか。それとも遠く離れてしまう理由を作ったもろもろの行為が悪いのか。
「本当に会いたいと思ってる?」
「思ってるよ!」
少し強めに云い返されて、安心する自分もたいがいどうかしている。
「もし会ってめっちゃ不細工になってたらどうする?」
「それはそれで面白いかもね」
ふあ、とあくびをする声が聞こえた。
「あーごめん。眠いよね、じゃ、切るわ」
「いやー別にいいけど。じゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
世界は敵だろうか、味方だろうか。
窓の外に静かに光る月を見た。
答えはまだない。