あんまりだ
その肌の白さは尋常じゃなかった。当たり前だ。外に出ないのだから。
僕が覚えているのはぼんやりと窓の外を眺めるその頤のほそさ。
律子さんは兄貴と一緒に死んでいた。身体は生きていたが、心が死んでいた。
この世のものではないから、その美しさは壮絶だった。
「隔世に、花は咲くかしら?」
律子さんは民俗学をよくした。兄が民俗学を研究していたからだ。
「あたしたちは、イザナギとイザナミが逆転しちゃったわね」
ふふと笑う彼女の先に、根の国が見えた気がした。
「律子さん、現世に生きてよ」
どうしようもなくて、それだけしか云えなかった。律子さんはただただ笑うだけだった。
僕はマレビトのかたちをとって、兄貴が律子さんを迎えに来るんじゃないかと気が気じゃなかった。律子さんは僕の巫女だった。神聖だが、巫女はマレビトと交わる。
秋になり、窓辺の鉢植えが枯れた。律子さんは悲しむかと思いきや、存外冷静だった。
「枯れない花はないわ」
それから3日後、律子さんはひっそりと息をひきとった。
直前、律子さんは兄貴の名を呼んだそうだ。ひどくなつかしそうに呼んで、静かに目を閉じたらしい。
僕はあんまりだと思った。