絶滅する人
意味もなくペラペラとページを捲っていた手を止め、俺は顔を上げた。
「絶滅危惧種?」
「うん。」
「あー…環境の変化に生きられなくなった動物はどんどん数が減って、絶滅しそうになるだろ?それを『絶滅危惧種』に指定して環境を変えないようにみんなで守ろう、ていう、まぁそんな感じだ。」
「ふぅん?」
弟はわかったようなわからないような曖昧な表情をして俯いた。
無理もない、今の説明じゃかなり不十分なことは俺だってわかってる。
「あ、じゃぁさ、人間も『絶滅危惧種』?」
俺は弟の言葉にチラリと外を見た。
今日も、よく晴れている。
「いや、違うな。」
「どうして?」
「元々環境を変化させてきたのは人間だったわけだし、そのせいで人間が絶滅するのは自業自得ってやつだろ?」
「・・・みんな、守ってくれないの?」
俺は弟の言葉に頭を悩ます。
「あー、と…もともと環境を壊したのは人間だったのにそのせいで絶滅していく動物が可哀想だと思った人間が、エゴでその動物を救おうと思ったんじゃねーの?」
ああ、言ってても俺もよく意味がわからなくなってきた。
「・・・難しいよ。」
「だから、人間が動物を守ることは出来ても、人間が人間を守ることは出来ないだろう、だって人間が『絶滅危惧種』ならさ。」
そう、それは人間が定めた定義なんだから。
「あー・・・うん。」
弟はまた俯いた。
「ねぇ、お兄ちゃん、恐竜ってずっと前に絶滅したんだよね?」
「あー、そうだな。」
無駄に頭を使った俺はもう弟の相手にも飽きてまた無意味に本を捲り始める。
「どうやって絶滅したのかな?」
「さぁな。」
「隕石がぶつかってみんな突然居なくなったのかな?」
「…そうかもな。」
「それとも一匹、また一匹と減って…『絶滅危惧種』になって最後の一匹が絶滅したのかな?」
「どうだろうな。」
「恐竜も、みんなに守って貰えなかったんだね。」
俺はまたチラリと外を見た。
よく晴れた大空に白い大きな星。
それはだんだんと地球に近づいてきている。
「僕ね、最後の一人になって絶滅するより、みんな一緒に消えちゃったほうが悲しくないと思うよ。」
「…そうかもな。」
弟の言うように、もしも、恐竜がだんだんに減ったのだとしたら。
最後の一匹が見た景色は一体どんなだったのだろう。
少なくとも俺たちはその一匹よりは幸せに死ねそうだ。
『地球滅亡まであと3日』