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僕の愛したひだりがわ

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 僕はいつも右側に座ります。僕の左はからっぽです。僕は左側に座る人を持っていません。しかし、待ってもいません。僕の左側には大切な人がいました。僕に名前をつけてくれました。僕と遊んでくれました。僕を愛してくれました。
僕はいつも左側だけがすこしあたたかい生き物でした。
僕は知っていました。生きているのもは全てじゅみょうというものがあり、何か病気とか、怪我とかしなくても死んでしまうことを。
僕の左側に座っていた人は、朝ごはんを一緒に食べた後、本を読んでいました。難しい本です。僕の知らない言葉で書かれていました。僕がその背表紙をじっと眺めていると、僕が遊んでほしいのだと思ったらしく、少し困ったように笑って、そっと頭を撫でてくれました。その手首から、死にいく人の匂いがしましたが、僕は何も云いませんでした。口に出すと本当になりそうだったからです。
頭を撫でて、それから、眼鏡を外して、少し休憩するよと云って目を閉じました。
「少し休憩するよ」
左側から、僕の身体を通って聞こえたその声を、僕はしっかり覚えています。
その人は目を閉じました。僕は待ちました。けれど、その人は目を開けませんでした。
夜になったのに眠ったままでした。僕はブランケットをかけてあげました。だんだん左側から温かい感じがなくなりました。
夜になりました。満月でした。僕は電気をつけませんでした。
「少し休憩するよ」
僕は左側の人が休憩するのを見たことが無かったので、少しがどれくらいか分かりませんでした。




作品名:僕の愛したひだりがわ 作家名:おねずみ