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お眠りきっと明日はいい日

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 彼はいつから弱くなったのだろう。そっと背中をさすりながら思う。嗚咽はとぎれとぎれになり、やがてときどき肩を震わす程度で、部屋には沈黙が広がった。
少し前までの彼は、たれより健全で、たれよりつよい心を持っているように見えた。しかし今、彼は目の前で弱々しく頭を垂れている。あらわになった首筋は酷く頼りなげに見えた。いっそこのままナイフで切り落としてしまいたい。弱い彼を見たくない、つよく思った。
何故彼はこんな、気軽に急所を見せるようなうかつな人間になってしまったのだろう?
たれが犯人か。知っている。あいつだ。
彼の手を取り、耳元で何かささやいていた奇術師のような。
操り人形の使い手のようだった。美しく長い指は欺瞞に満ちていて、彼も危険な人物だと認識していたはずなのに。なのに、どうして?
彼らの間に何があったのか知らない。ただ、ある日急に彼らは旧知の仲のように緊密な付き合いをするようになり、そうして彼は弱くなった。
あの奇術師のような怪しい人間は、彼の云っていた伯父さんと何か関係があるのではないかと思っている。けれど聞けずじまいだ。今自分にできることといえば、背中をさすって人肌のぬくもりが近くにある安心感を与えることだけ。

はやく婚約してしまえばいいのだ。この目の前の男を、ずっと待っている可憐な人を知っている。彼女はたれより心が広くて、あたたかい。きっと彼の弱さも脆さも、不安な心も包み込んでくれるに違いない。本当によくできた女性だ。彼女はずっと待っている。彼もずっと薔薇を送っている。なのに一向に関係は深まらない。
本当、世の中うまくいかない事だらけだ。
思うと何もかもが嫌になって、そっと目を瞑った。