わたしのオリオン
「お前のことを好きになれたら、とても楽なのに、」
ぐいと酒を煽ったその頼りない咽喉が搾り出した言葉は、何ともいえないものだった。
この男、思わずぐっと奥歯をかみ締める。
「はいはい、あたしのことを好きになりなよ」
ぽんぽんと背中を叩いて、軽口のように答えるとふにゃりと笑った。
ああ、こういうのが庇護欲をそそるというものか、頭の片隅で感心している自分がいた。存外冷静なのだ。
その後もむにゃむにゃなにか云っていた様だけれど、もうサッパリ覚えていない。
ただお互い憎からず思っているのに永遠に結ばれることがないのかと思うと、どこの神話だと自嘲したくなった。
「さて、なんだっけ。さそり座とオリオンではないけれど。しかしまあ、アンタはうぬぼれやのオリオンが似合いだわ」
そっと髪を撫ぜてみた。むずがるようにしていたが、それでも気持ちよかったのかまた眠ってしまった。
「そしてあたしはあんたを殺すさそりが似合いだ」
もう近づいてはいけないのだ。互いのために。