あたしのかわいい殺し屋さん
さて、世界は混沌に満ちていた。昔東の一帯を支配していた、世界帝国のひとつの神話を知っているか?兄と妹が、尾で交わる、それだ。あの二人が現れる前の世界と思ってくれていい。世界は混沌としていたのだ。混沌は、秩序正しく片付けられなければならない。その世界の秩序をつくる者が覇者で、正義で、規則だ。
「さあ、あたしのかわいい、あなたは命ずるのよ」
そっとそのまろみを帯びた頬をなぜる。人の子よ。あなたは愛されるかたちをしている。守られなければならないから。そう、あたしがあなたを守るのだ。この醜い鱗の尾で。醜いけものの羽根で。あなたを守ろう。全てから。世界覇者よ。
「命じなさい。世界に。ひれ伏すことを」
切っ先を、そっと後ろから突き出す。彼を守るように。
「ひ、ひれ伏せ」
かわいらしいこどもの声が、しんとした、荒涼たる大地に響く。そうひざまずき、かしずかなければならない。
「彼はこの大地の王なのだから」
小さい手は、見えない血で真っ赤だ。
作品名:あたしのかわいい殺し屋さん 作家名:おねずみ