死神の情愛
登校中の自分に元気な声で呼びかけたのは、部活の後輩の紅一点だった。その姿は最愛の主人<かいぬし>を見つけて嬉しさも露に駆け寄ってきた犬そのものだ。だが、これはこれでこの後輩の可愛さなので、彼は苦笑して振り返った。
「おまえか。今度はどうした」
傍まで駆け寄ってこられるように足を止めると、彼女は一歩離れた位置でぴたりと足を止めてお辞儀する。
「おはようございます! あのですね、昨日、この近辺でまた例の人が出没したっていうニュースがあったんですよ! 五丁目のあのオンボロアパートですって。これはもう今度こそ我々超能力研究会の出番だと思いませんか?」
超能力研究会、というのは、彼らの所属している学校一怪しい部――もとい、同好会である。その名の通り超能力と呼ばれるものを研究したり、オカルトじみた信憑性のない話で盛り上がったり、まあ、そんなような部活だ。
男ばかりの十一人が集まった部で、彼女はそこの紅一点である。一番年下ということもあってみんなに可愛がられているのだが、本人にその自覚はない。あくまで彼女は超能力やオカルト話が大好きで大好きで仕方なくてこの怪しい部に入部した。
「またあの事件か? おまえも追っかけるのが好きだな」
「もちろんです! だって、事件が起きた場所で必ず同じ証言がされているんですよ。そのどれもがみーんな『死神を見た』っていう奇妙な証言なんですから。これはもう、超能力研究会の一員としてぜひとも確認しなければならないと思います!」
その彼女が目下、熱を上げているのは、ここ最近で随分とメディアを賑わせている、この近辺に出没するその『事件』だった。
殺人事件から傷害事件やら、とにかく物騒な、しかもあんまりに突拍子もない理由で起こった事件が頻発しているのだが、その事件事態に関連性は皆無だ。ただ、その現場に居合わせた人間が口を揃えて証言する。『死神を見た』というのがそれらしい。といっても、この科学の発達したご時世でそんな寝言のようなことを信じる人は誰もいない。だが、今まであった大小二十四の事件で必ず誰かがそう証言しているのだ。しかも、証言した人間は決まって恐慌状態だという。これは何かある、と目をつけたのが始まりらしいが、不謹慎にも彼女は事件が起こるたびに嬉しそうに報告をする。その『死神』の正体を突き止めたいのだそうだ。
「あんまり首を突っ込むなよ。巻き添えを食ったらただ追っかけて喜んでるんじゃ済まされないんだからな」
「分かってますって! わたしはただその『死神』さんを見てみたいだけなんですから」
意味が分かってねえ。と苦笑しながら、彼は思う。
――好きなだけ調べたらいいさ。どんな事件でも、おまえは巻き込まれやしない。リストに入っていないおまえを、死神<おれ>は殺せないから。