先生とわたし
世界で、一番大嫌いです。
閉校時間を過ぎた教室は誰もおらず、静かさを保っていた。掃除したにも関わらず机の一が整っていないのは単に清掃係が手を抜いたのであろう。
私は何時もと変わらぬ教室の鍵穴に鍵を差し込む。なかなか左には回らない鍵を力一 杯引き抜くと私はため息を落とした。
「帰るのか?」
低い声が静まりかえった廊下に響き、私は肩をビクリと竦みあげた。色の薄い双瞳を細め、それを見届けた声の主は頭に手を突っ込み吐息する。
「せ、んせい」
か細い声に先生は頬を緩める。そして私は伏し目がちに言葉を繋げた。「今から帰る ところです」
「そうか」
相変わらずの短い会話。彼は何故か私と話す時に、(普段も饒舌な人ではないけれど)何故か何時も以上に言葉が減る。
その理由がわかったとき、多分、私は彼が嫌いになったのだろう。(どうせ、どうせわからなくても答えは同じなのだろうけれど)。
「なんなら、送っていってやろうか?」
軽快な笑みを浮かばせた彼。小さく、小さく目を見開いて、私は首をふった。
「送り狼になりそうだからいらないよ」
「生徒にゃ手は出せねーよ」
信用できない。と私もほこりを被ったような笑顔でわらって、笑って彼に手を振った。「じゃあ、またあした」
「ああ、明日な」
かちゃり。なかなか左に回らなかった鍵をかけ、彼が消えていった廊下をこっそり辿っていく。
もどかしい思いは、この鍵のようになんて閉じにくいんだろうか。
すでに、あなたへのきもちをきづかれていることなんてかぎをかけて封じ込めてしまいたい。
(世界で、貴方が一番大嫌いです。
世界で、一番大好きな貴方が、私は世界で一番大嫌いです)。