運命宿命聯盟
どうやって伝えたらいいだろうか。わたしだって、もしわたし自身の事でなければとても信じられたものじゃない。夏子は目の前の後姿を眺めながら思った。しかし、これは絶対真実だ。思えば思うほど、心なしか手の甲の傷跡が赤味を増しているようにも感じる。
「岬!」
頭上から不意に声がして、目の前の彼が振り返る。夏子は、ほら、やっぱりと思うと同時に視界がぶれるのを感じた。
あ、落ちる。思った。階段を踏み外したのだ。どうしよう、すぐ下には例の彼がいる。そのまま転げ落ちるかと思ったが、幸いにも彼と、彼の友人と思しき人に受け止められ事なきを得た。
ほっと息をつく間もなく、恥ずかしさに頬が染まる。階段を踏み外すなんて、こどもじゃあるまいし。
「大丈夫ですか?」
声の主は例の彼だった。
「あ、はい…」
「手、怪我してる」
彼の友人らしき隣の長身が、ひょいと手をつまみあげる。それは、と云い掛けて、逆にこれは使えるのではと思い、口をつぐんだ。
「お前保健室つれていってやれよ。俺今から職員室だし」
「いいけど、」
一度言葉を区切り、彼がこちらを見た。何も云わずじっと見つめ返すと、じゃあと云って彼は歩き出した。
と思うと振り返り、上のほうを見つめ、先ほどの声の主に何やら云っていたが、夏子はそれどころではなかったので結局二人が何を云いあっていたのかわからずじまいとなった。
今出会ったばかり(と彼は思っているはずだ)、無論会話が弾むわけもなく、お互い押し黙ったまま保健室へはいる。戸を引く彼の手を見ると、自分と同じような赤い傷跡があった。
「先生いないみたいですね」
彼が振り返る。
保健室はしんと静まり返り、消毒液のにおいばかりが溢れかえっていた。
「あなたも、手」
「…ああ、これは違うんですよ」
「いつから?」
「…なぜ?」
不審そうに彼は夏子を見た。夏子は手の甲を彼に見せる。
「同じかたち。これ、さっきの怪我じゃないんです。そして、わたしあなたを知っています」
さて、これからどう説明したものか。胡乱な顔つきで自分を見つめる彼を見て、夏子は思った。