月夜のピエレット
夢を見た。夢の中で俺は勉強していて、机のおくにある小さな窓からは、月と小さな名前も知らない星が見えていた。俺は月に雲がかかるのを見て綺麗だと思った。
「そうね」
不意に声が聞こえた。女の声だ。変に甘ったるくて、少なくとも俺の周囲にはこんな頭の悪そうな声をわざわざ出すようなやつはいない。
振り向くと女がいた。
「誰だお前?」
女は昔風の服を着ていた。きっとペチコートなんかはいているに違いない。もしかしたら鯨のひげさえ必要とするくらい古めかしい服装だった。いまどきそんな服装ビスクドールしかしていない、といった感じの。
女は俺の質問を笑って流して、手にしていたパラソルで窓の外を指し示した。
「もうすぐ流れ星がくるわ」
反射的に、指し示されたほうを見ていた俺は、流れ星を目撃することとなる。しかも、大量に。ひゅるひゅると落ちていく星屑は、ちょっと信じられないくらい美しかった。
「星が死んでいくわ。あなたはあの星の名前を知らないでしょう?あれはわたしのお友達だったのよ。かわいそうなリメラはこんな最果ての星で死んでしまうのね」
女のほうを見ると、涙ぐんでいた。
何と声を掛けたものか。俺は思案した。しかしそんな俺にお構いなく、女はあっと声を上げた。
「いけないわ。もう時間ね。ねえ、あなた、この掛け時計は正確なの?」
「ああ、それは昨日時間をあわせたばっかりだ」
「なんてこと!それじゃあ、本当に明日が来てしまうのね。もう行かなくちゃ」
「ちょっと!お前は誰なんだよ」
ドアノブに手をかける女にむかって叫んだ。
女は振り向くことなく、明日になればわかるわ!と唄うように云った。
夢を見た。
女が出てくる夢だ。
ビスクドールのような、古風な服をした、とんでもなく変な女だった。