いちごのショートケーキ
無邪気な笑顔でそんなセリフをさらりと言ってのける彼につられて笑ってしまう。
「じゃあここだと他の音と混ざって聞き辛いから屋上行こうか。高村君のフルートが、一番良く聞こえる所」
少したてつけの悪い扉を強引に開けると気持ちの良い風と青空が目の前に広がった。部活のない放課後、こうして屋上で聞く彼のフルートの音色はとても繊細でキレイだった。その音を私しか知らないのがなんだか勿体無い。
部活中に聞く彼の音色はどこか焦っている。室内で聞くと窮屈そうで、中庭では少しアップテンポ。それは初心者故のことなのか、彼の音色は場所によって異なった。その場その場によって、さまざまな顔を見せる、苺のような彼に私は密かに憧れを抱いている。
作品名:いちごのショートケーキ 作家名:日和