モダンタイムズ
<終電の男>
終電が過ぎたホームの待合室に一人の男が座っていた
駅員が近寄った。
「今日の電車は今ので最後ですよ」
男は駅員を一瞥した。直ぐにゆったりと前を向きなおしたが。
酔っ払いならまだアア。酔っ払いか。またか。そう言えただろうに。
その男は言ったのだ。
「知っています」
「何時飛び込んで行こうか悩んでいたらこんな時間になってしまいました。」
真顔で言った男の目の下には少し隈があった。
擦れ違うだけならなんとも思わないような男であったが
よくよく見ると少々やつれたように思えた。
ギョッとした駅員が男を連れて行った。
駅員は焦って気付いていなかったようだが
あの男の身から出しているあの諦めたような空気に
気付くことが出来たのであろうか
わたしのまわりにも少々まばらに人はいたが
どんな様子に見えたのであろうか。
哀れに、か。
呆れに、か。
怒りに、か。
わたしはなにも思わなかったのだ。
なにも思わなかったのだ。
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