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蛇の目

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 ②宿のあるじ



民宿は古びた割には小奇麗に掃除されていて好感が持てた。
それから、二階の部屋に通されて、意外にも随分と豪勢な部屋を
割り当てられた。
「山本権造さまから、特別な配慮をするよう仰せつかってますんで。」
主は、なんとも事務的に話す男で、これは保険のようなものだ、と考え、
この宿の主に、いろいろと話を聞くよう考える。

もちろん「山本権造」のインタビューの下調べではあるのだが
インタビューに仮に失敗しても、別なフォローが出来るように。
下手な紀行文以上のものが、この片道三時間を掛けたバス旅行で得ることが
恐らくは出来るだろう、そう踏んだのである。

予期しない豪勢な料理でもてなされたあと、この主に話を聞くと
主は、ひとことひとこと、言葉に気をつけながら、話をしてくれた。
「ここいらのものはね、皆、山本って姓ですよ。権造さんは本家で。
私は、分家の市彦といいます。」

夕食の後、渓流釣りと野草マニア相手の商売と、
自嘲気味に笑う「グランドホテル」の支配人。
「ここいらぁの・・見ものって云ったってぇ・・バブル崩壊で
みんなぁ潰れてしまいましたからぁねぇ。この宿だって、リゾート計画が
成功することを当て込んで作ったんですがね、
いやぁ、ご覧の通りの閑古鳥で。」
作品名:蛇の目 作家名:平岩隆