蛇の目
生臭い匂いが立ち込め、几帳面に思えるほど、小まめに扉の鍵を掛ける
権造に、不気味さを憶えた。
「ここいらでぇ山本ってのは、白ヘビさまぁ奉っている家系のことよ。
白ヘビさまぁ、長寿と繁栄の神様だっぺ。昔昔、神代の時代からぁ
この土地を支配して来たんだっ。
ここんとこ数世代、ワシらが不甲斐無いばかりに
白ヘビさまぁ、お怒りになってですよ。しっかりせねば。」
「再びぃ、この土地より、全国をウシハく為に。
白ヘビさまぁ、生き続けておられてですよ。」
次の扉が開けられたとき、すべての記憶が無くなると思われた。
いや、むしろ無くなってくれ、と願ったのかもしれない。
目の前に現れたのは、体長雄に10 数メートルはあろうかと思しき
白い大蛇が、胸をいっぱいに膨らませて、鎌首を擡げる姿だった。
いや、この白い大蛇のほかにも、数匹の大蛇が祖霊舎の中には蠢いていた。
これが、太古から生きてきた大蛇だというのか。
床には脱皮した跡なのだろうか、生臭い蛇皮が散乱していた。
よく見れば、権造の顔をした皮もあった。
この男は脱皮したのか。
つやつやした肌の110 歳の老人は甲高い声をあげた。
「あんたぁ川辺んちの話ぃ、聞きたかろ。あれんうちは生餌よ。
ヘビさまたちの供えモンとして、生かしておってですよ。
そこそこ、使い切ったらぁ、川辺んちのもんはぁ、皆ここで餌になる。」