蛇の目
⑧四日目
四日目のインタビューに訪れると、幸造の姿は無く、
女中が権造の車椅子を押していた。
「すまんね、幸造のヤツ、からだぁ悪くして、部屋で臥せってますんでぇ。」
権造は、甲高い声で、顔をくしゃくしゃにして笑って見せた。
肌が乾燥しているのか、ボロボロと顔面の皮膚が白い粉となって落ちる。
「昨日は、くだらんところを見せてしまって、堪忍ねぇ。
重ね重ね、すまんかったねぇ。」
なんとも優しい口調で。
「あんたぁ、今朝方・・川辺ン家の方に行っただろ?
んにゃぁ、隠さなくてもいいさぁ。
あれら、碌な話しなかっぺ、ん?“え”のくせぇ、しやがってさ。」
言葉が聞き取れなかったが、権造は取り直して。
「くだらん奴らだからぁ、忘れて頂戴ねぇ・・」
すべてはお見通しだった。
「ささ、はじめよ・・わしの時間は、多くないかもしれんし。」
おどけながら云う「山本権造」。意外にチャーミングなところもある。
破竹の快進撃を進めた「山本権造」だったが
しかし、バブル崩壊とともに、リゾート開発計画は暗礁に乗り上げた。
転落の始まりである。村は多額の負債を背負い、山本権造は県会から撤退。
どこにでも転がっているような、バブル景気終焉の悲劇。
だが、山本権造は否定する。むしろ昭和天皇の崩御が契機だという。
「昭和天皇(1901-1989)が崩御されたときはぁ、正直、落胆したぁよ。
役場の書類上は、同じ誕生日だったからぁ、お天道様の上の人だけどもな。
わしん中では、生き甲斐であったんだと思うなぁ。
玄関の梁にロープかけて首吊って死のうと思った。
だが、あん馬鹿息子に助けられてな。アレにはそのことは感謝してるさぁ。
だけんどなぁ、ひととしてのワシは、そこで終わったと思うのよ。」