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蛇の目

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世はバブル期。山本権造は、自らの集落にリゾート開発に着手した。
「ヒメゴコロの郷」と名付けられたこのリゾート開発計画は順調に進んだ。
「ヒメゴコロの郷開発公社」の社長には息子の幸造が就任。
若干20 代の若手社長として、当時のマスコミの取材も集中したことも
あったが実権は、やはり山本権造のものであった。

様々な人間が、この土地を訪れた。代議士、銀行家、農協、デベロッパー
温泉の掘削屋、テレビ局、イベント屋、コピーライター、などなど。
「銭の匂いに敏感な奴らがさぁ、その匂いに釣られて次から次に、
手を擦りながら来たモンさぁ、
ドイツもコイツもオベッカばっか並べ立ててさ。」
勿論、当然の如く川辺家は反対派として手を挙げたが、
当時の権造の勢いに本気で楯突く者は皆無だった。

完成予定図を元にしたミニチュアモデルが作られた。
シャトルバスの運行計画も練られた。
4 つのゲレンデのスキー場、温泉ホテル、
土産物売り場を併設した巨大なシャトルバスターミナルなどなど
「ヒメゴコロの郷」リゾート計画は着々と進み
巨大な掘削機がこの山奥の地に投入され、温泉を掘り当てた。
泉質は、さほどのものではなかったが、分家の市彦はホテルを建てた。

その日のインタビューは、荒れた。
幸造氏が、思わずついた悪態に、権造は、激しく激昂したのだ。
そもそもの発端は「ヒメゴコロの郷開発公社」についての話だった。
幸造氏は、自分に全てを任せていれば、あんなことにはならなかった、と
言わんばかりに、「山本権造」ひとり任せの当時の体質を嘆いた。

しかし、他の場所でも見れば解るように、ここだけでなく、他の多くの
地方自治体で、町おこしのリゾート建設に乗り出し、バブル崩壊の余波を
受けて、消えていったのだ。まして、金融経験の無い弱冠20 代そこそこの
若い経営者が乗り切れる程の、生易しいものではなかった。
そして、老獪な「山本権造」をしても乗り切れなかった、と見るのが一般的だろう。

確かに「ヒメゴコロの郷開発公社」の社長として、矢面に立たされたのは幸造氏で。
多くの同世代の者がそうであるように、その後の人生はバブル崩壊のツケの払い
に費やされてきた。
「権造さんも、しつこかったんだァ、よせばいいのにさ、
開発公社の金のほとんどを株屋に任せっぱなしだったからサぁ!」
作品名:蛇の目 作家名:平岩隆