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蛇の目

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 ①旅路


その集落に辿り着くためには、一時間に一本しかないJRの単線に乗り、
降りた駅で、一日一往復しかない村営バスに乗らなければならなかった。
結局のところ、駅前の温泉宿で一泊することとなり、翌日の昼過ぎに出る
バスに乗り込んで、現地に向かうことになってしまった。
真夏の長い日を無駄に過 ごすことになってしまったが、
緑鮮やかな田園風景が心を癒してくれた。

翌日の昼過ぎに、バス亭に向かうと、
埃に塗れたマイクロバスが停められていた。
運転手はまだ食事中らしく、しかし、キーを付けたまま、
ドアは開け放たれており中には、行商のおばあさんが二人座り込み、
ちょっと聞いただけではわからない独特の方言で絶え間なく話していた。

夏のこの時期、それでも玄戒村に行く道は楽なほうらしい。
冬ともなれば、この地は大量の雪に覆われる。
この辺鄙で貧しい土地にかつて一度だけ、開発と云う名の波が押し寄せた。

その大立役者が、当時の県会議員「山本権造」で、
今年は彼の生誕110 周年にあたる。

それを記念した「伝記」というか「人物誌」の執筆を依頼されたが
驚いたのは、企画立案者が、当の本人「山本権造」であることだ。
かつてこの地に「帝国」を築き、バブル崩壊と共に消えたとされた男は
生きていたのだ。
そして、齢110 歳を迎えるこの男に、
直にインタビューする機会が与えられたのだ。
作品名:蛇の目 作家名:平岩隆