魔術師 浅野俊介6
「いや…実はインプ達が暴れていてね。ニバスの技でインプ達を楽しませてやって欲しいんだ。」
「ふーん?いったいどうしたの?」
「よくわからん。…誰かがインプ達に何かを命じたみたいなんだけど…」
「ちょっと待って…」
ニバスは浅野と同じように人差し指を額にかざした。
「…人間に呼び出されてるよ。」
「!?なんだって?…人間にできるのか!?」
「悪魔に魂を売った奴がいるね。そいつがやったんだ。…インプくらいなら人間でも呼べるから。」
「そいつが誰だかわかるか?」
「顔は浮かぶけどうまく口で言えない…」
「そうか…じゃぁまぁいいや…」
「インプ楽しませたら、何かくれる?」
「あ、そうだな…うーんと…あ!これ人間界でしか採れないものなんだけど…。」
浅野は首にかけていたシルバーのネックレスをはずした。
「銀っていう鉱物でできているんだけど…いる?」
ニバスが目を輝かせたかどうかスカーフで覆われてわからないが、手でそれを探るように掴むと嬉しそうにした。無機質なものは、やはり目で見ないとわからないのだが気に入ったようだ。
「これくれるの?」
「あげるよ。今、つけてやろう。」
浅野はニバスの首にネックレスをつけた。ニバスがにこにこと笑った。
「…似合う?」
「似合う似合う!赤いその衣装に映えて光ってるよ。」
「ほんとっ!?ありがとう!俊介ー!」
「いえいえ。…インプ達を楽しませてくれれば安いもんだ。」
「わかった。」
「インプ達を呼びよせることできる?」
「もちろん!」
ニバスはさっと掌を上に向けた。小さなラッパが現れた。
そしてそのラッパを高らかに吹いた。
すると人間に見えていたらぞっとするだろうほどの、こうもり形のインプの集団が集まってきた。
(ひーー…こんなに増えていたのか!!)
浅野は自分の失態を今さらながら反省した。
「はーい!ニバスのショーが始まるよー!!」
ニバスが両手を振りながら言った。インプ達はきゃっきゃっと声を上げながら、ニバスの周りに集まった。
浅野は柵にもたれ、その様子を離れて見ることにした。
(可愛さは全く違うけど…施設の子どもたちの目と同じだ…)
浅野はふと思った。
浅野は乳児院に捨てられていた子どもだった。その時点でもう羽が背中に生えていたという。大きくなるにつれ隠すことができるようになったが、羽が白いにも関わらず、当時の施設の従業員達に「悪魔の子が来た」と気味悪がられた。
ただ院長だけが、他の子どもたちと分け隔てなく浅野を見守ってくれたおかげで、浅野はぐれることなく成長した。施設を出て自立しても、時々施設に行っては、マジックをその施設の子どもたちに見せていた。
(…そういや…悪魔に追われるようになってからは行ってないなぁ…)
浅野はインプ達が楽しそうにしている姿を見ながら思った。
(…今度はいつ行けるんだろう…。悪魔に追われてる身では行けないし…でも…あの皆の笑顔をみたいなぁ…笑い声が聞きたい…)
浅野はふとこぼれた涙を拭いた。
「さぁ!ここでは終わりだけど、まだニバスのショーを見たい人っ!!」
ニバスがそう言うと、インプ達が皆立ち上がって声を上げ、手に持った小さな槍を上下に振った。
「よーし!じゃぁ魔界まで競争だ!」
「!?」
浅野は驚いてニバスを見た。そこまでやってくれるとは思わなかった。
ニバスは「これ…ありがと!」と言って、首元のネックレスを指でつついた。
浅野は微笑んでうなずいた。
「また…遊びに来いよ。ニバス。」
「うん!俊介大好き!」
ニバスはそう言って空を飛んだ。インプ達がそのニバスについて行く。ニバスとインプの集団は満月に消えて行った。
「…死ねば…ニバスにも会えるだろう。」
浅野は微笑みながらそう呟いて、しばらく満月を見ていた。
(終)