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SNOW~去りゆく者~

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静かに雪が舞い落ちる様をただ意味もなく見つめていた。
体はすでに動かない。また、動かす気力もとうの昔に失われていた。
痛みも苦しみもなく、感じるのは流れ出る血の熱さと、雪の冷たさだけ。

(泣くかな…あいつ…)

最後まで自分を止めようとしていた少女のことを、ふと考える。
意地っ張りで、いつもは嫌味しか言わないくせに自分が戦場に出ると知ると必死になって止めようとしていた。
最後には行くなと言って涙まで浮かべていた。
結局その涙は零れることはなかったが、今にして思えばあの強気な少女が自分に初めて見せた涙だった様に思う。

(普段からあれくらい素直でいれば良いのに)

自分の考えに笑いがこみ上げてくるようだった。
そんな少女は少女ではない。
自分が愛したのは誰よりも強気で、意地っ張りで、快活に笑い、傲慢なまでに自分に命令する少女だ。
しおらしさなど欠片も持ち合わせていない、そんな気位の高い彼女が好きだったのだ。

降り積もる雪の所為か、視界には一面の白しか映っていない。
冷酷なまでの白に嫌気がさして目を閉じる。
最後にこの瞳に写すなら、故郷の麦畑がいいと思った。
あの金色の海を、最後にこの目に焼き付けたいと思った。


瞳を開けて苦笑する。

(幻覚まで見え出したか…)

一面に広がる金色。
残光を受けて燃え上がる空。
そこにたたずむ一人の少女。

(……)

小さく名前を呟けば、少女が驚いたように振り返る。
すぐにその顔が笑顔に変わる。
その笑顔を見ると自分が故郷に帰ってきたかのような錯覚を受ける。
少女が自分に向かって走り寄る。

(ただいま)

駆け寄ってきた少女に告げると、泣き出しそうに顔を歪めながらそれでも少女は笑う。

おかえり

少女の告げる言葉が胸に小さな光を灯す。
帰ってきた。
ここに。
少女の下に。
その実感は紛れもない幸福となる。
小さな幸福感は全身に心地よい熱を生む。
熱はやがて睡魔を呼ぶ。

近くの木陰に少女と共に座り込み、襲いくる睡魔に身をゆだねる。
体が泥のように重く動かない。
自然とまぶたが瞳を覆う。

……

少女が何かを告げるが、その言葉すら自分の耳には届かない。

(眠い…)

男は眠気に身をゆだねる。
作品名:SNOW~去りゆく者~ 作家名:夢宮架音