君に会えてよかった。
そう、僕は見ていることしかできなかったんだ。
雨の日ずぶ濡れの姿で僕の前に現れた君に無力な僕は何も応えてあげられなかった。
「私、どうしたらいい?」
彼女の嗚咽と雨の音だけが耳に響き渡った。
彼女との出会いは10年前。
確か、幼稚園の時だったかな。泥んこだらけの彼女が全力で僕のそばやってきてこう言ったんだ。
「ここでなにしてるの?」
一生懸命見上げながら話しかけてくる彼女。
そのつぶらな瞳を僕は忘れたことがない。
誰にも話しかけられず、ソコに立っているだけだった存在の僕に彼女は語りかけてくれた。
「僕はこの街を見ているんだよ。」
「見てて楽しい?」
「楽しいよ?だって君にも会えただろ?それに僕はこの街だ好きだ。人と人とが手を取り合って大きく成長していくこの街。何年も何年も繰り返して歴史を作っていくこの街が。僕はずっとここで見守ってるんだよ。」
「そっか!それじゃぁ私があなたを守ってあげるからね!約束!」
小さな彼女はにかっと笑い僕に言った。
今思えば不思議な話で、彼女がどうして僕に話しかけてきたのかなぜ話せたのかは全く分からない。
けど、僕にとってはとても有意義で楽しい10年間だったと思う。
そして思うんだ。この日のために神さまは彼女を僕に出会わせてくれた。
今日、大雨のこの日。彼女が泣いてやってきたこの日。
僕は明日ここから去らなくてはならない事を告げに来た。
もう、何百年も立っているこの場所からいなくならなければならない。
泣きながら何度もごめんねと謝る彼女。
君は悪くないよ?だから泣かないで?
抱きしめる手がないのがもどかしい。
頭を撫でる手がないのがもどかしい。
なにより、泣いている彼女を見ているのか悲しかった。
いつかは来ることだと思っていた。
仲間が次々といなくなっているのに僕だけどうしてこの場に残れよう。
だからいいんだ。僕のために泣かなくて。
泣き顔なんかじゃなく笑顔を見せておくれ?
僕は君の笑顔が大好きなんだから。
「守れなくて・・・ごめんね?」
彼女は小さな声で呟いた。
その日がやってきた。
彼女は僕をじっと見つめていた。
聞こえるかな?僕の声。君なら聞こえるよね?
だから精一杯の思いを彼女に伝えたい。
「ありがとう。君と過ごせたこの10年。楽しかったよ?だからもう泣かないで?僕は幸せだったから。」
ハッと目を見開く彼女。そして、
「ありがとうー!私も大好き!!!!」
目にいっぱい涙を溜めながらも笑顔で手を振ってくれた。
よかった。これで僕は心おきなく眠りにつける。
さようならみんな。僕は旅立ちます。
「おじょうちゃん。確かこの木を守りたいって署名集めてた子だよね?」
私の大事な友達を殺したおじさんが声をかけてきた。
「なんですか?」
このおじさんが悪いんじゃないと思っていてもどうしても態度にでてしまう。
「睨まないでおくれよ。わしも辛いんだ。わしもこの木には思い出がたくさんあってな?・・・」
そう言うと、おじさんは昔話をしてくれた。
おじさんの子供のころはたくさん緑がまだあったこと。
ここは子供たちの遊び場で絶えず笑顔があふれていたこと。
ここにはもっとたくさんの木が生えてきたこと。
そして、仲間が次々に倒されていったこと。
「あ!そうだ。お譲ちゃんこれをあげよう。」
取り出したのは一本の枝だった。
「これは?」
「これか?これはさっきのやつの枝だよ。この枝を水につけりゃもしかしたら根が出るかもしれねぇ。あの大きさになるには何十年何百年かかるがな。わしが本当は育てようかと思ったんだがな。さっきお譲ちゃんが叫んだときにハッとしたんだ。これは俺の役目じゃないってな。だから譲ちゃん。この木を頼む。育ててやってくんねぇか?」
ねぇ、君?今日はどんな気分?
私はね?最高の気分だよ?
テストの成績よかったし、なんたって好きな子にすごいって褒められたんだから!ねぇ聞いてるの?
日当たり良好。窓際の特等席!
今日も君はそこでぐんぐん大きくなってる。
いつかまた話ができる日が来るのはかはわからない。
けど、君は私の一番の友達だった。
これからもずっとそれは変わらない。
「今度は守るから。これからはずっと一緒だよ?」
不意に言葉が聞こえた気がした。
ありがとう。
僕も君をまもるよ・・・・。
作品名:君に会えてよかった。 作家名:遠山雷