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シスター・リーリエの日常

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「そんなに緊張しないで。おいでなさいな」

 私が彼女に招待を受けたのは、何日前だっただろうか。この際どうでもいい気がしてきた。きっとどうでもいいに決まっている。
 彼女はテーブルの向こう、木製の椅子に腰かけて私に微笑みかけている。

「ほら、はやく」

 三日月のかたちのように端を緩く釣り上げた薄紅色の唇も、粉雪のように滑らかな白い肌も、ほんのりと花の香りを漂わせる亜麻色の髪も、優しげな印象を与えるゆるやかな弧を描いた眉と目も、彼女を表す記号にしか過ぎない。ひとつひとつが完璧なまでに整い、それでいてそれぞれが調和した彼女のかおは、間違いなく「うつくしい」と呼ばれるのだろう。だけどもそれが、ひどく恐ろしかった。
 いますぐここから逃げ出したかった。けれどそれは許されない。逃げれば何が起こるかわからない。

「そうそう。そこに座って」

 にこにこ笑う彼女は、いそいそとティーポットを傾けて、空のティーカップに赤とも茶色ともつかない色の液体を注ぐ。ハーブの香り。紅茶のようだ。
 私は自分で自分の顔を見ることができない(あたりまえだ)が、今の自分は青白い石膏像のようにかちこちにかたまった表情をしているのだろうな、と思った。思った、と言うか、確信した。私はきっともう、動けない。

「ハーブティー。カモミールよ。クッキーもあるの、どうぞ」

 差し出されたそれは温かかった。人肌よりは少し熱い。それが少し嬉しかった、人肌のぬくもりを感じてしまえばこの思考に拍車がかかってしまうだろうから。
 彼女はじっと私を見ている。飲め、と言っているのだろう。私はそれに従ってこの紅茶を飲まなければならない。だって彼女がそう言うのだから。毒が入っていようと、私はこの液体を飲み干さねばならない。

「……ねえ」

 彼女が、ゆっくりと視線を下げて、ややあって戻す。紅茶よりも鮮やかな赤色だった。私はその色がひどく痛いと感じた。

「私がなぜあなたをここに呼んだか、わかるかしら」

 にげろにげろにげろと声がした。どこから、それはたぶん私のあたまの中だろう。
 数秒遅れて紅茶の味が脳に届く、文句のつけようなしにおいしかった。ここちいい香りが鼻に抜けたけれど、口の中は苦くて堪らない。なんのあじだろう、これはたぶん私の唾液だ。こんなに苦かっただろう? か?

「……まあ、わからなくったっていいんだけれどね」

 彼女はそう言って、ゆっくりと椅子から立ち上がる。それは死刑を宣告する裁判官の声、処刑台の階段を上る足音、ギロチンの縄が切れる音、大きな刃が私の首と身体をわかつ音。




 ねえしってる?
 あの教会に足を踏み入れた人は、二度と帰ってくることはないんだって。
 噂だけどね。