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お姫様は頭の痛いお遊びがお好き

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おまけ


 十二月三十一日。よりにもよってこのくそ忙しい時に、怪我をこしらえた折原臨也が森羅の住処にやってきた。後ろ暗い仕事の最中、どんなとばっちりでも喰らったのか。森羅は利き腕をかすめた銃創を診るなり手早く処置し、知り合いの薬剤師(もちろんこちらも非合法)宛に書いた処方箋を押しつけお帰り願った。
『今、臨也が来てたのか?』
 エプロンを着け、手にははたきという出で立ちのセルティが寝室から姿を見せる。
「そう、折原くんが仕事中に怪我したらしくて。彼も大変だね、こんな年の瀬まで仕事なんてさ」
 はあ、とセルティはため息をつく。実際は息をつく首がないのだが、森羅には分かるので問題はない。
『お前が仕事をしなさすぎなんだ。一日に急患を二件引き受けただけで「忙しい」とか言うし』
「だって、君が家にいる時はふたりでゆっくりしたいじゃないか。それにしても、大掃除もたまには悪くはないもんだね、君のいつもとは違うコスチュームが見られて僕は実に眼福だよ!」
『……コスチュームとか言うな、無駄にいかがわしい』
「いやいや、だってさ、何でも似合うと思ってたけどさすがはセルティ、エプロンに掃除道具を持つ姿も可憐だよ!シンデレラやグレーテルもかくやの似合いっぷりだね!今度はぜひそういうシチュエーションの時にこの格好をしてくれれば私は興奮のあまり君にぐはあっ!」
 言動にいかがわしい臭いが漂い始めた辺りで、セルティはいつものように影を操り森羅をこぶしで黙らせる。
『こんな格好に興奮するな。セーラー服とか要求された方がまだ分かるぞ』
「えっセーラー服なら着てくれるのかい?!」
『…………、また今度、な』

 西洋の妖精である事実を忘れてしまいそうなほど日本の暮らしに馴染んだセルティが、一念発起して大掃除を始めた。案外マメな性格らしい彼女は、掃除を始めるとやる気に火がついてしまったらしく、森羅そっちのけで掃除に没頭してしまった。
 首無し妖精がエプロン姿で雑巾掛けする様はシュール極まりない光景だったが、森羅は例の如く彼女を褒めそやすと、彼も掃除を手伝うべく動き回っていた。早く彼女とまったりくつろぐために。
 そんな最中だったものだから、森羅の臨也への対応は実におざなりだった。

 無事年内に掃除を終え、静かに二人きりで新年を迎え、明けた翌日の朝。ふたたび臨也はやってきた。

「年越し年明けと、君の顔を見ることになるなんてね」
「俺だって別にお前たちの邪魔をしたくて来てるわけじゃないんだけど」
 闇医者が必要でなければ来るものか、と言外に込めて。臨也にしては珍しく気忙しそうな声だった。
「きつめの鎮痛剤は出せないか?おとといもらった薬を失くしてね」
「我慢できないのかい?」
「できないことはないけど、顔色を変えずに一日過ごせる自信はないな」
 引っかかる言い回しに、「たしかうちにあったと思うけど」と森羅はリビングに彼を通し、医療関係の物を仕舞っているキャビネットを探りながら言う。
「何か事情があるみたいだね。差し支えなければ聞かせてよ」
 座った臨也は天井を仰ぎ、肩をすくめてから腕の痛みに顔をしかめた。しゃべる気になったらしい。正月の追加料金のつもりだったのか。
「これから親戚のうちに新年の挨拶に行くんだけど、そこで会う従兄の子を心配させるといけないからね、できるだけ何事も無かった顔をしないと」
「その子、君の裏の顔を知らないのか」
「ああ。ごくごく普通の、一般人だよ」
 異様なものを見た、と森羅は思った。あの折原臨也が、それこそ普通の人みたいな顔で、微笑んでいたからだ。
「……何者?その子」
「だから普通の子だって。いや、あの歳でネット使いこなしてるし、俺になついてるし、ちょっと普通じゃないかもなぁ」
「そりゃすごい」
 とんぷくとコップに汲んだ水を手渡して、森羅は彼の向かいに座る。学生時代からの付き合いで彼の性格や性癖を熟知しているだけに、俄然興味が湧いてきた森羅だった。
 幾つの子かは知らないが、ネット云々は臨也の仕込みだろう。何より臨也がそこまで気にかける人間がこの世にいたとは。彼の博愛主義は全人類に及ぶため、一人当たりに割り当てられる関心は限りなく薄いのだから。
「それで、その子はいずれ折原くんの信者や手駒になる予定なのかな」
「さあね」
 薬とともに水を一息に呷り、臨也はいつもの陰のある笑みを浮かべる。
「信者はどうか分からないけど、盤上に上がってもらう事にはなるだろうな」





 竜ヶ峰家へ向かう電車の中、臨也はふと、森羅と交わした会話を思い返す。
「とは言ったものの、まだ使い道がサッパリ見えてこないんだよなぁ……」
 使い捨てにはしたくない。ネットの歩き方や情報の集め方、パソコンを欲しがっているからそちらの知識も蓄えさせてやって。温存しておいて、いざと言うときに大事に使うのだ。
 けれど、帝人という駒の使い道が見えてこない。ここぞ、という配置場所がどこもピンとこないのだ。まだそんな局面ではない、と考えればそれまでなのだが。
「なんかあの子の事になると、調子狂うな」
 臨也は首をかしげる。
 自分の中に芽生え根を張りつつある、奇妙な感覚を持て余して。




End.