恋するワルキューレ 第三部
『恋するワルキューレ』第3部
第10話『ロードバイク・テロリスト“エンゾ相模川”登場 〜 店長さん! わたし必死で走るから!』
「店長さん、こんにちは!」
「こんにちはー! 店長さん、お邪魔しまーす!」
「あっ、裕美さん! それに舞さんも、いらっしゃい!」
「あのー、店長さん。特に用がある訳じゃないんだけど、クッキーを買って来たからちょっと寄ってみたの。もし良かったらなんだけど、お店の皆さんにって思って」
「いつもすいません。お菓子を頂いてばかりで。代わりと言っては何ですが、コーヒーを持ってきますから、裕美さんも舞さんもゆっくりしていって下さい」
「そんな店長さんの仕事の邪魔をしちゃ悪いわ。お構いはいらないから平気よ」
「そんなことありませんよ。実はちょうど今、美穂さん達も来ているんです。だからちょっと寄っていって下さい」
「えっ! 美穂姉えが来てるの!?」
「ええ、それにテルもユタも来てるんですよ」
「うん、みんなが来てるんなら、お言葉に甘えさせもらうわ!」
裕美は今日も用がある訳でもないのに、ロードバイクショップ『ワルキューレ』に来ていた。
裕美はサイクリングロードでの練習の後は、ワルキューレに来ることが習慣になっている。もちろん店長である“彼”こと“タッキー”に会うことが目的だ。しかし彼には、あくまで隣のフレンチ・レストラン『フィガロ』でランチを食べに来ているのだと説明している。実際に『フィガロ』のオープンテラスは、チーム『ワルキューレ』の溜まり場でもあるだけに、用も無くとも店に寄る客は少なくない。
ただ裕美は今日のチーム練習には参加せず、会社の後輩である舞に付き合ってのサイクリングの後だった。
まだ舞はロードバイクに乗り始めて間もないため、ワルキューレの練習会に参加することは躊躇しており、まずは裕美と二人でサイクリングから始めることになった。
初めは裕美も可愛い後輩のために『おつきあい』で、舞のスロー・サイクリングに同行していたのだが、これが意外に楽しく、ワルキューレの練習をサボってこちらに参加することが多くなっていた。
舞がリードするサイクリングは、街や通りをブラブラするだけの、いわゆる『ポタリング』と言われるスタイルだ。“スピード・ラバー”の裕美としては、本音を言えば最初は退屈極まりないものでしかなかったが、舞はある程度“ポタリング”に慣れてくると、都内のスポットを上手くルートに組み込みこんで、魅力的なサイクリングに仕立て上げていたのだった。
情緒溢れる下町の風情や、花や新緑を愛でる皇居、海を見渡せる高層ブリッジなど、“パリっ娘”の裕美が知らない東京の素顔が見えるなかなか乙なサイクリングとなってきた。
もちろん美味しいお店を探し、お腹一杯食べることも楽しみも一つだ。
舞も流石にその辺りは心得たもので、iPhoneのナビゲート機能を使い、美味しいお店を必ずポタリングのルートに必ず組み込んでくるので、裕美も安心して舞のリードに任せていた。電車や徒歩ではアクセスが難しい穴場的グルメスポットも、ロードバイクなら比較的短時間で行くことが出来るし、お店に着くまでにお腹も勝手に空いてくれるのだから、楽しみにも事欠くことはない。
そんな舞とのポタリングや、ローラン達との合同練習もあって、最近ちょっとワルキューレの練習会に出るのはご無沙汰していたのだ。
それに美穂も女性プロ・ロードレーサーとしてレース等で各地を転戦したりで忙しく、またテルやユタもアイドルとしての仕事もあってとみな忙しい身でもあるので、彼らに合えるのはちょっと久しぶりだ。
「美穂姉え、それにテル君もユタ君も久しぶりね?」
「裕美、久しぶりやな! 撮影の時以来かあ?」
「うん、あの時は本当に助かったわ。でも、あの撮影から色々あったのよ。聞いて、聞いて!」
しかし美穂とそんな話をする間もなく、テルとユタが鼻息を荒くして裕美の元へ飛び込んで来た。
「あっ、裕美さーん、こんちわっす!」
「裕美さーん、ちょっと、お願いがあるんすよ!」
「ちょっと、二人ともどうしたのよ? そんな慌てちゃって!?」
「聞きましたよ。裕美さんが最新の『マドン』を買ったって!」
「そうそう。バイクだけじゃなくて、"Bontrager"《ボントレガー》のカーボンホイールも買ったってね。見せて下さいよ。出来たらちょっと乗せて下さい。お願いします!」
「もう、二人とも何を考えているの? 女の子に気の利いたことも言わずに、新いバイクはないんじゃないの? アイドル失格よ!」
「ハハハ……、まあ良いじゃないすか。俺らと裕美さんの仲だし」
「そうそう、もう深い仲なんだから、一つ固い挨拶は抜きってことで」
「こらーっ! 何が“深い仲”よ。変なこと言わないでったら。本当に子供ね!」
「うわっ、裕美さん、冗談ですから怒らないで下さいってば!」
「そうそう。裕美さんだから、こんな冗談が言えるじゃないですかー? 普通の女の子じゃ言いたいこと言えなくてツマンないんすよねー」
もう、二人とも本当に『男の子』なのよねえ。もうちょっと女を褒めることの出来る“いい男”になって欲しいのに!
でも、そうゆう所がテル君とユタ君らしいわよねえ。まあ実際、『男の子』だから、可愛いんだけどね……。
「二人とも仕方ないわね。いくらでも乗っても良いから大人しくなさいね!」
「ワオ! 裕美さん、ありがとです!」
「裕美さーん、ちょっとサドルも高さも動かして良いですか?」
「もう、好きにしなさい!」
「やったー。おお、すっげえデザイン。超目立つ! さっすが、ロワ・ヴィトン製!」
「メンズでもこんなデザインのバイク出してくれねーかなー? ポール・スミスなんかのバイクはイマイチだったしなあ」
「デザインも良いけど早く乗ってみようぜ」
「いや、もう少し見てからだって! ほらBBもダウンチューブもデケーじゃん。シートポストも変わってるし」
「俺は新しいデュラも試したいんだってば! 早く乗ろうぜ!」
そんな新しいバイクに夢中になっているテルとユタを見て、舞がちょっと驚いたようだ。
「センパイ、センパイ。あの二人って、もしかしてあのシャニーズのテル君とユタ君ですか?」
「そうよ。ここの『ワルキューレ』のメンバーで、ホノルル・センチュリーライドに行った時仲良くなったのよ」
「わーっ、スゴイ! 本物のテル君とユタ君だ! 私二人が出ていた映画も見たんですよー! 私、絶対二人と仲良くなります!」
舞は、今人気上昇中のアイドルであるテルとユタに会って興奮気味だ。
裕美もテルとユタに初めて会った時、舞と同じ様にミーハーに喜んでたことが随分昔の様に思える。今ではすっかり気の合う友達同士だ。いや、友達と言うよりむしろ、姉と弟の様な関係と言った方が良いかもしれない。
第10話『ロードバイク・テロリスト“エンゾ相模川”登場 〜 店長さん! わたし必死で走るから!』
「店長さん、こんにちは!」
「こんにちはー! 店長さん、お邪魔しまーす!」
「あっ、裕美さん! それに舞さんも、いらっしゃい!」
「あのー、店長さん。特に用がある訳じゃないんだけど、クッキーを買って来たからちょっと寄ってみたの。もし良かったらなんだけど、お店の皆さんにって思って」
「いつもすいません。お菓子を頂いてばかりで。代わりと言っては何ですが、コーヒーを持ってきますから、裕美さんも舞さんもゆっくりしていって下さい」
「そんな店長さんの仕事の邪魔をしちゃ悪いわ。お構いはいらないから平気よ」
「そんなことありませんよ。実はちょうど今、美穂さん達も来ているんです。だからちょっと寄っていって下さい」
「えっ! 美穂姉えが来てるの!?」
「ええ、それにテルもユタも来てるんですよ」
「うん、みんなが来てるんなら、お言葉に甘えさせもらうわ!」
裕美は今日も用がある訳でもないのに、ロードバイクショップ『ワルキューレ』に来ていた。
裕美はサイクリングロードでの練習の後は、ワルキューレに来ることが習慣になっている。もちろん店長である“彼”こと“タッキー”に会うことが目的だ。しかし彼には、あくまで隣のフレンチ・レストラン『フィガロ』でランチを食べに来ているのだと説明している。実際に『フィガロ』のオープンテラスは、チーム『ワルキューレ』の溜まり場でもあるだけに、用も無くとも店に寄る客は少なくない。
ただ裕美は今日のチーム練習には参加せず、会社の後輩である舞に付き合ってのサイクリングの後だった。
まだ舞はロードバイクに乗り始めて間もないため、ワルキューレの練習会に参加することは躊躇しており、まずは裕美と二人でサイクリングから始めることになった。
初めは裕美も可愛い後輩のために『おつきあい』で、舞のスロー・サイクリングに同行していたのだが、これが意外に楽しく、ワルキューレの練習をサボってこちらに参加することが多くなっていた。
舞がリードするサイクリングは、街や通りをブラブラするだけの、いわゆる『ポタリング』と言われるスタイルだ。“スピード・ラバー”の裕美としては、本音を言えば最初は退屈極まりないものでしかなかったが、舞はある程度“ポタリング”に慣れてくると、都内のスポットを上手くルートに組み込みこんで、魅力的なサイクリングに仕立て上げていたのだった。
情緒溢れる下町の風情や、花や新緑を愛でる皇居、海を見渡せる高層ブリッジなど、“パリっ娘”の裕美が知らない東京の素顔が見えるなかなか乙なサイクリングとなってきた。
もちろん美味しいお店を探し、お腹一杯食べることも楽しみも一つだ。
舞も流石にその辺りは心得たもので、iPhoneのナビゲート機能を使い、美味しいお店を必ずポタリングのルートに必ず組み込んでくるので、裕美も安心して舞のリードに任せていた。電車や徒歩ではアクセスが難しい穴場的グルメスポットも、ロードバイクなら比較的短時間で行くことが出来るし、お店に着くまでにお腹も勝手に空いてくれるのだから、楽しみにも事欠くことはない。
そんな舞とのポタリングや、ローラン達との合同練習もあって、最近ちょっとワルキューレの練習会に出るのはご無沙汰していたのだ。
それに美穂も女性プロ・ロードレーサーとしてレース等で各地を転戦したりで忙しく、またテルやユタもアイドルとしての仕事もあってとみな忙しい身でもあるので、彼らに合えるのはちょっと久しぶりだ。
「美穂姉え、それにテル君もユタ君も久しぶりね?」
「裕美、久しぶりやな! 撮影の時以来かあ?」
「うん、あの時は本当に助かったわ。でも、あの撮影から色々あったのよ。聞いて、聞いて!」
しかし美穂とそんな話をする間もなく、テルとユタが鼻息を荒くして裕美の元へ飛び込んで来た。
「あっ、裕美さーん、こんちわっす!」
「裕美さーん、ちょっと、お願いがあるんすよ!」
「ちょっと、二人ともどうしたのよ? そんな慌てちゃって!?」
「聞きましたよ。裕美さんが最新の『マドン』を買ったって!」
「そうそう。バイクだけじゃなくて、"Bontrager"《ボントレガー》のカーボンホイールも買ったってね。見せて下さいよ。出来たらちょっと乗せて下さい。お願いします!」
「もう、二人とも何を考えているの? 女の子に気の利いたことも言わずに、新いバイクはないんじゃないの? アイドル失格よ!」
「ハハハ……、まあ良いじゃないすか。俺らと裕美さんの仲だし」
「そうそう、もう深い仲なんだから、一つ固い挨拶は抜きってことで」
「こらーっ! 何が“深い仲”よ。変なこと言わないでったら。本当に子供ね!」
「うわっ、裕美さん、冗談ですから怒らないで下さいってば!」
「そうそう。裕美さんだから、こんな冗談が言えるじゃないですかー? 普通の女の子じゃ言いたいこと言えなくてツマンないんすよねー」
もう、二人とも本当に『男の子』なのよねえ。もうちょっと女を褒めることの出来る“いい男”になって欲しいのに!
でも、そうゆう所がテル君とユタ君らしいわよねえ。まあ実際、『男の子』だから、可愛いんだけどね……。
「二人とも仕方ないわね。いくらでも乗っても良いから大人しくなさいね!」
「ワオ! 裕美さん、ありがとです!」
「裕美さーん、ちょっとサドルも高さも動かして良いですか?」
「もう、好きにしなさい!」
「やったー。おお、すっげえデザイン。超目立つ! さっすが、ロワ・ヴィトン製!」
「メンズでもこんなデザインのバイク出してくれねーかなー? ポール・スミスなんかのバイクはイマイチだったしなあ」
「デザインも良いけど早く乗ってみようぜ」
「いや、もう少し見てからだって! ほらBBもダウンチューブもデケーじゃん。シートポストも変わってるし」
「俺は新しいデュラも試したいんだってば! 早く乗ろうぜ!」
そんな新しいバイクに夢中になっているテルとユタを見て、舞がちょっと驚いたようだ。
「センパイ、センパイ。あの二人って、もしかしてあのシャニーズのテル君とユタ君ですか?」
「そうよ。ここの『ワルキューレ』のメンバーで、ホノルル・センチュリーライドに行った時仲良くなったのよ」
「わーっ、スゴイ! 本物のテル君とユタ君だ! 私二人が出ていた映画も見たんですよー! 私、絶対二人と仲良くなります!」
舞は、今人気上昇中のアイドルであるテルとユタに会って興奮気味だ。
裕美もテルとユタに初めて会った時、舞と同じ様にミーハーに喜んでたことが随分昔の様に思える。今ではすっかり気の合う友達同士だ。いや、友達と言うよりむしろ、姉と弟の様な関係と言った方が良いかもしれない。
作品名:恋するワルキューレ 第三部 作家名:ツクイ