サトルさん
若く、健やかな生命とエネルギーに満ちた男の子だ。そしてそういう事をする時、わたしはコンタクトレンズを外さないことにした。彼を愛しいと思うほどに、わたしは彼を愛してみようと思った。そう思ったとき初めて、わたしは泣いた。最中に泣いた。わんわん泣いた。彼はわたしを抱き締めて愛の言葉を述べたり、宥めすかしたりしたけれど、わたしはそういう事とは関係なく泣いた。そして初めて、彼を愛した。しがみついた背中、皮膚の下で熱く脈打つ血脈にすらわたしは、うっそりとした愛を、しかし強烈に覚えた。そうしたら、サトルさんがきっぱりさっぱり消えてしまった。サトルさんらしい最後だった。
その後、きっとサトルさんはそんな事くらい許してくれるだろう、とわたしはサトルさんの好きだった寺の仏像の類に向かって手を合わせた。お墓の場所も知っていたけれど、それも都合よく忘れてしまった。
深大寺の新緑が生命のエネルギーにそのしなやかな肢体を震わせ、遠くからは気の早いセミが爆発するような力を持って鳴き震え、手を合わせたわきの下がじんわりと汗を帯びた。もうすぐ、夏がやってくる。それだけの事なのに、わたしは少しだけ泣き出したくも、笑い出したくもなって、口元がむずむずとした。そして、くるりと向きを変え、観光客の間をすり抜け、蕎麦でも食べようと駅に向かって歩き始めた。