少年の見た夢
僕は母さんの失望と心配をまぜこぜにしたような声を聴きながら、ぼんやりとカーテン越しに見える空を眺めていた。昼の光を受け、カーテンはあわいクリーム色から光の色へと染まり、僕の腕へと降り注ぐ。気だるく、しかし幸福な気持ちでその光を眺めていたら、ふいに足元から水が溢れ出した。僕はびっくりして、しかし動けずにそのまま足元から、ベッドから、本棚から、教科書から溢れる水を眺めていれば、とうとう水は部屋を浸し、僕は酸素を求めてもがいた。青く、しかし無色、美しく、しかし苦しく、その水を僕は喘ぎ、もがきながら体をバタつかせればバタつかせるほど、体は深く青に沈み、そして指の間の水かきが大きく広がり始め、酸素を求める鼻はちいさく退化をし、足はつながり、尾ひれとなって、僕を酸素へと押し上げる。
ああ、光だ。
マグネシウムリボンを燃やすような光が僕を侵し、酸素を得た時、僕はちいさなクジラになっていた。いや、僕は元々クジラだった。深い水を遠く、冷たく引きつる水を、濡れたベルベットの体で泳ぎ、僕は自由だった。僕は、どこへだって行ける。海の生き物には法律も善悪も、そして死すらない。ただ延々と肉体を変化させ、誰かの命となり、そして新しい血と肉の中を深く泳ぎ続けるだけの永遠があった。僕の体は喜びに満ち溢れていた。ああ、僕はどこへだって行ける。しかし、次の時、僕の体がぽろぽろと、崩れ、僕は悲鳴を上げた。獣のような悲鳴を上げたとき、僕は人間へと生まれ落ちていた。
血と脂に塗れながら、しかし僕はやはり自由だった。