恋の掟は冬の空
大場と夏樹と
「あの晩、ここに、もう少しで帰って来れたんだけどなあ・・」
ソファーに座ってため息、ひとつだった。
「もう、お布団入ってたんだよねー わたしは・・」
「直美のあわてた顔はきっと 一生忘れないわ」
「劉の病院で泣きそうな顔も忘れないわよ」
横に一緒に座った直美に言い返されていた。
「まだ、夏樹たちも、来ないと思うんだけど、スーパーに行かないとだなぁ・・」
「夏樹と大場だけでしょ・・」
「うん、もうすぐ来ると思うんだけど・・」
「そっかぁ、じゃぁ 少し休んだら、買い物に行こうかぁ」
「もう夏樹の家にいたりするのかなぁ、大場君も・・」
「どうだろう、まだなんじゃないのかなぁ」
台所に立って、直美がコーヒーを入れだしていた。
「ごめんね、ばたばたしちゃって」
「いいから、直美も座って、ゆっくりコーヒー一緒に飲みなよ」
「うん」
両手にマグカップで返事をして、うれしそうにいつものように横に座っていた
「開けてぇー 重いんだからぁー」
コヒーを飲んで、買い物にいかないとって話し終わったら、インターフォンから大場の声だった。
「いま、開けるね」
直美が答えながら、玄関のドアに向かっていた。
「おじゃましまーす、遅くなっちゃった・・」
「退院おめでとう、重いのよー あがっちゃうよー」
夏樹の声と大場の大きな声がすぐに響いていた。
「なんかさ、いっぱい買ったら重くなっちゃってさぁ」
大場の手には買い物袋がいっぱいだった。
「お鍋でいいよね、直美」
「こんなに いっぱいすごいねぇ、あっ蟹も・・」
「うん、大場がせっかくだから豪勢にって・・」
「わー、年末だから高かったんじゃないの」
「いいのよ、バイト始めたから、大場が・・」
夏樹と直美が、買い物袋をテーブルの上に広げながら台所と冷蔵庫に食材を分けながらだった。
「あれー それって、まだなの」
俺の横にソファーに座って大場がギブスを指差していた。
「これを外すのはまだだけど」
「なーんだ、そっか、外して退院かと思ってた」
「あのさ、ギブスのまま歩いている人、今まで見たことないのか、大場って・・」
「あっー そうか、歩いてるわ」
「だろ、今、俺ってそれだわ」
「そっか」
自分で買ってきた缶コーヒーを飲みながらだった。
「夏樹ぃ、俺も手伝おうかぁ」
「大場は、なーんも出来ないから、そっちでおとなしく待っててくれたほうがいいや」
「そうかぁ・・じゃぁそうします。自分でもそう思うわ」
「おっ かしこくなったね、大場・・」
大場は舌をだして笑いながら俺を見ていた。
「柏倉さぁ、今日は俺のおごりだから、いっぱい食べてね、蟹も買ってきたからさ・・」
「すんげーな」
「ま、退院お祝いだからさ、 いいのよー」
「後で、なんか言うなよ、お前・・」
「そんな、ケチじゃねーよ」
「いや、ケチじゃないんだけど、後でなんだか、ずーっと言うタイプだからさ」
「そんなことないって」
なんだか、必死な大場の顔でおかしかった。
直美と夏樹は台所で一生懸命料理を楽しそうに作っていた。
「ねぇ、大場、ビール飲むならだすけど・・」
「おっ
いいこと言うねぇ夏樹、 飲んじゃうかなぁ、それと、さっき買ってきたカキフライ食べちゃてもいいかな・・」
言いながら、大場は立ち上がって冷蔵庫にもう向かっていた。
「柏倉も 飲むでしょ・・」
「うん」
「はぃ、じゃぁ コップね」
「ありがとね」
座りながらだったけど、出されたコップを受け取っていた。
「もう、ちゃんと お皿にだしてよー」
「いいじゃん、お皿汚れちゃうし・・」
「まったくー、はぃ、これにきちんと出しなさいよ」
「はいはい、わかりました」
パックに入ったカキフライを夏樹に怒られながら大場がお皿にしぶしぶ移してソファーの前に戻ってきていた。
「はぃ、じゃあ、お先に軽く乾杯ね」
「うん。先に少し飲んじゃうねー」
大場に勧められて、ビールに口をつけながら、台所の2人に声をかけていた。
「もうすぐ、出来あがるから、待っててね、おいしそうだよー」
直美が振り返ってだった。
「あー、あんたたち、箸ぐらいつかいなさいよー」
夏樹が、振り返って手にカキフライの大場に怒っていた。
「だって 箸ださないんだもん 夏樹が・・」
「出さなくても探して持って行きなさいよ、子供じゃないんだから、まったく・・」
「ごめんごめん、これつかって・・」
あわてて、直美が割り箸を差し出していた。
あいかわらずの大場と夏樹だったけど、仲がいいのには間違いなかった。
今日も夏樹の首には大場があげたネックレスが輝いていたし、大場を怒りながらもうれしそうな夏樹の顔だった。
「これに 火つけといてね、劉」
言いながら直美が卓上コンロをテーブルの上の真ん中においていた。
「うん、もう出来ちゃうんだはやいねー」
「鍋だから、材料切っただけだもん、あとはここでつくりながらね」
「そっか」
火をつけて鍋を置くと、夏樹がお皿にいっぱいの材料を抱えてテーブルの上に並べていた。蟹がいっぱいだった。
「じゃぁ 座ってとりあえず乾杯しようよ」
夏樹がグラスを自分と直美の前に出して、ビールを注ぎだしていた。
「では、柏倉の無事退院をお祝いしまして、かんぱーい」
大場の大きな声が部屋に響いていた。もちろん直美の声も夏樹の声もだった。
昼間はあんなに おなかいっぱいだったけど、おいしそうな料理が並ぶとまだまだ、食べられそうだった。
やっぱり、家が本当に良かった。
俺もうれしそうな顔をしているんだろうけど、大場も夏樹の顔も、もちろん直美の顔もうれしそうで、なんだか、ほんとにうれしかった。
目の前にはあったかそうな湯気がいっぱいだった。