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恋の掟は冬の空

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月曜が動き出す


月曜の朝は病棟でもさすがに昨日とはちがってあわただしく動いていた。
「柏倉君、これからレントゲン室にこれをもっていって写真撮ってきてね」
今日は、元気な顔の担当医の山崎先生に指示書みたい書類を持たされて言われていた。
「はぃ、それだけでいいですか・・」
「うん、午後にそれを見て、経緯かが良好だったら退院日でも相談しようかぁ・・」
「はぃ」
「では、次はっと・・」
言いながら先生はもう隣の左腕と肋骨を折っている高校生の診察を始めていた。
レントゲン室は2階だったから、松葉杖をついて向かうことにした。
だだっぴろいエレベーターで2階に下りて右に曲がるとレントゲン室とかの検査室だった。
先生にさっき渡された書類を受付の箱に入れたけど、どうにも待ちそうなかんじだった。
名前を呼ばれたのは、長椅子に座ってから20分も経った後だった。
「えっとー 柏倉君ね、はぃ そこに台の上に足出してねぇ・・・はぃ いいよー えっと横も取りたいんだよねぇ・・うんとそそ、そのままね・・」
言われるたびに隣の部屋に避難しながらの若い技師だった。
「はぃ じゃぁ 終わりね・・もう退院なのかなぁ 柏倉君は・・」
「今日の写真で 良好ならって、先生が言ってました」
「そっかぁ、よかったね。じゃぁ、気をつけて病室にもどりなさいね」
いつも丁寧なで優しい感じの人だった。
「はぃ どうも失礼します」
頭を下げて、5階の部屋に戻ることにした。
また、だだっ広いエレベーターに乗ってだった。
最初に乗った時はびっくりした大きさだったけど、ステレッチャーが乗るんだから当然だった。

「レントゲン撮ってきたのかなぁ・・」
ナース室の前を通りかかると工藤主任だった。
「はぃ 今 行って来ました」
「そっかぁ 今日は直美ちゃんは来ないのかなぁ・・」
「バイト入ってますから来ないですよぉ」
「そっかぁ なんかさ 昨日、寧々が直美ちゃんのお弁当おいしかったって言ってたから・・今日もないかなぁって・・」
ほんとにお喋りな ナースだった。
「そんなに毎日は無理ですよ。でも、伝えておきますね」
「あ、でも もうすぐ退院だね、柏倉くんは・・今日のレントゲンの結果待ちだね、朝の引継ぎで聞いたから・・よかったね」
にっこり微笑まれていた。
「さすがに ここでお正月は・・なんで」
「あー 私なんか大晦日から深夜勤入ってるからなぁ・・元旦の朝はここで迎えるんだから・・」
本当にナースって大変そうだった。
「夕子ちゃんに勉強教えてるんだってね・・」
「俺じゃないですよ・・俺そんなにできないから・・今の大学もやっとですから、直美がですよ、教えてるのは・・」
高校生の時も間違いなく直美のほうが成績よかった。
「夕子ちゃんって、退院はまだまだですか・・」
「うーん 折れたところが大腿骨だからねー、まだまだだねー」
よくは知らなかったけど、自転車と車の交通事故だったらしい。
「そうですかぁ 勉強ここだと4人部屋だから大変そうだし、でも病室で個室はものすごく高そうですもんね」
1日どれくらいだったかは まったく知らなかった。
「大きな声では 言えないけどね。ホテル泊まれる金額だから・・それも高級のね」
周りを見渡しながら小さな声の工藤さんだった。
そんなにするのかって思っていた。
「あ、ごめんナースコールだ」
言いながらすばやく、真剣な顔で応対を始めていた。
他のナースもみんな忙しそうだった。
失礼しまーす って頭を下げて病室に向かうことにした。
もうすぐ お昼の時間だった。

午後になって面会時間が始めると同時に赤堤の叔母がいきなり病室に来ていた。
「劉ちゃん こんにちわ」
「あ、どうも昨日はすいませんでした。座ってください」
ベッドの背もたれを起こした格好だったけど、叔母に椅子を差し出していた。
「それで来たんだけどね・・昨日あれから買いにいって、23日の午後に配達してもらうように頼んだから・・最初ね1週間もかかるって店員さんがいうから、叔母さん怒ってなんとかその日にねじ込んできたからね・・それなら間に合うのよね」
勘がいい叔母だったから 口にはださなくてもわかっているらしかった。
「すいません ほんとに・・でもその日には取りにいけないと思うんですけど・・」
「それは わかってたんだけど・・気持ちの問題だから・・」
うれしそうな顔の叔母だった。
「で、退院の日にちは決まったかしら・・主人が車出すからって言ってたから」
「さっき レントゲン撮ってきたので、たぶん夕方までには結果出ると思います。でも、これで帰れますから・・」
松葉杖を指して答えていた。
「いいのよー 遠慮しないで、うれしいんだからあの人も・・仕事忙しくなければ毎日でも寄りたいんだろうけど、あの人」
叔父が病室に来るとけっこう うるさいから こっちは仕事が忙しくってほっとしていた。
「はぃ では頼むかもしれませんから、その時はよろしくって叔父さんに伝えといてください」
「遠慮しないでね」
念を押されていた。
「それからね、ほら相手側との交渉はあの人の会社の弁護士さんがやってくれてるから、劉ちゃんは、まったく悪くないからなんだけど、ほら車と車がぶつかってから1台が劉ちゃんに当たって来ちゃったから、そこのところがねー なんか複雑らしいのよ」
事故の示談はすべて叔父に頼んでいた。
「すいません 面倒な事お願いして・・よろしく言ってください」
「いいのよ こんな時につかわないと毎月の顧問料なんてバカらしいもの・・」
笑いながらだった。
「お茶でも 飲みませんか・・ポットにお湯は入れてありますから」
ベッドから体を起こして立ち上がりながらだった。
「いいの 悪いんだけどこれから教会で、ちょっと集まりがあるから 帰らないといけないのよ・・」
「それなのに わざわざすいません・・クリスマスですもんね・・いそがしそうですね準備で。 あのー 大きな木にクリスマスのライトって今でも飾ってるんですか・・」
小さい時になんどか見た記憶だった。すごく綺麗だった。
「劉ちゃんが 小さい時よりも もっと綺麗に飾ってあるわよー 夜になるととっても綺麗でね」
「そうですかー 見たかったなぁ」
小さい時だったからなのか ほんとうにいっぱいの星があったかく光って、それが降りそそぎながら体を包み込むような・・そんな記憶の光だった。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生