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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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ヘルパーさんのお仕事

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「この仕事で一番大切な事はお年寄りとの意思の疎通を計る事」
「そして常に明るく、ニコニコと利用者に接する事・・・」

 この仕事を始めた時に、先輩から言われた言葉やった。
 それやから、私は「そんなもんホームヘルパーの仕事とちゃうやんけー!」と思うても、生け花の好きな菊代さんの為に、ストレリチア(なんじゃそら)を買いに走り、79歳にもなってオタクの幸吉さんの為に、アマゾンでアニソンを代理購入もしてあげた。
 
 ただまあ、そういうじいさん、ばあさんはごく普通の人で(いや、そうなんですて)いいのだが、

 問題は、このじいさんだった。

「こんにちはー、源三さん、遅うなりましたー」

 私はめっちゃ、こしらえた笑顔を浮かべ、その家の扉を開けた。

「ああ、よう来たね。そこにコーヒーがあるよって、好きなだけ飲んどいて」

 源三さんは、六畳の間にデンと置かれた机の上に原稿用紙を置いて、何やら執筆中やった。

 しめっぽい老人が多い中、思いっきし明るいB型丸出しの性格。
 高齢で一人暮らしでも、ヘルパーなんかいらんほどの健康体。
 
 そんな利用者さんやと言うと、ヘルパー仲間から、羨ましがられたんやけど・・・。
 
 
 
「でけた! 超大作や」
 そう言いながら源三さんは原稿用紙の束を、でっかいホッチキスで止めた。
 
 見ると【カーツ・OC、七つの大冒険】などと書かれている。
 
 これまでにも作曲家やダンスの振り付け師にあこがれた源三さん、その度に手伝うはめになり、歌わされたり踊らされたりしたんやけど、どうやら今度は自称作家さんみたいやった。
 
 もともと、テレビドラマを見ながら、「この脚本家はへたくそや」とか、
 新聞小説を読みながら「こんなもん小説になっとらん」なんてぼやいてたんで・・・、
 
 私が「それやったら源三さんが小説書きはったらええやん」などと、言ったのがいかんかった。
 皮肉のつもりやったのに、「そら、そうや」なんて言い出し、小説を書き始めたんや。
 
 ちら見するとタイトルの脇に、“小説執筆を勧めてくれた我が友、美由紀さんへ(私の名前や)”なんて書いてある。
 こんな事、書いてるという事は、読めっちゅうことなんやろう。
 けど、ほんまは私は小説なんか大っきらいなんや。
 
 それやのに、このじいさん、満面の笑みを浮かべて私に「待たしたねー」なんて言いながら原稿の束を手渡した。
「そんなもん誰も待ってへーん」とは言えなかった。
 
「ど、どんな内容なんですかー?」
 ジト汗を流しながら、私は原稿用紙をペラペラとめくってみる。
 恐ろしい事に、全部で63ページもあった。(拷問や!)
 
「うーん、中身は言われへんけど、まあ主人公のカーツ・OCが、謎の組織と戦う為にF1ドライバーになってモナコGPに出たり、(おいおい)マカオのカジノで一夜にして数億円もうけたり(できるか)、ヨットのアメリカス・カップ(なんやそれ)に出て優勝して、美女と有馬温泉に行ったり(そこだけしょぼい)そういう小説やねん」
 
 そう言いながら、源三じいさんは内容を思い出したか、フヒヒと笑った。
 どうやら恋あり笑いありの大活劇みたいやった。
 
「まあ、ワシはずっと退屈な人生を送って来たから、小説の主人公にはパーッと大冒険をさせたろと思ったんや」
 源三じいさんは目を輝かせて力説した。
 
 ここまで来ると万事休す・・・。私は覚悟して、最初のページを開いた。
 【第一章・カーツ・OCと秘密の基地】どっかで聞いたようなサブタイトルやった。
 
 
 体力を消耗しながら三時間! なんとか読み終えたけど・・・、
 
 
 
 残念な事に・・・その小説は、源三じいさんの人生より、ずっと退屈なものやった。
 
 
        (おしまい)