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遼州戦記 播州愚連隊

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 明らかに敵意に満ちた表情が赤松を捉えるが彼は無視して大きく深呼吸をした。
「ああ、どうぞ」 
 西園寺の表情はこれから赤松が話す内容に興味を感じていると言うような感じだった。同じく醍醐などの西園寺派の将校たちも期待を込めた表情で赤松の言葉を待ち続けている。
「今回の越州での叛乱についてですが……」 
 無理に標準語のアクセントでしゃべる赤松。その言葉に『叛乱』と言う言葉が使われたのを聞くと聴衆の一部が立ち上がろうとした。
「待ちたまえ、君達!最後まで聞こうじゃないか」 
 余裕を持って西園寺が制する。そして醍醐が振り向いてにらみを利かせると彼ら烏丸派の人々は静かに腰を下ろした。
「今回動いている艦隊ですが……どう見ても規定の稼動率を上回る規模の艦隊が作戦行動に移っているわけですが」 
『まるで準備していたようだと言いたいのか!』 
 そこで飛んだ野次。赤松はそのにやけた陸軍大佐の目をにらみつけた。それなりに修羅場をくぐってきた自負のある赤松の視線を受けて烏丸派のその将校は下を向いて黙り込む。
「叛乱鎮圧にはそれなりの戦力と言いますか数を用意する必要があると思われます。元々鎮台府の城提督と貴下の上官の起こした叛乱です。数で脅せば兵士達の士気は落ちることでしょう。問題はそれが濃州攻略に彼らが成功した前か後かと言うことになると思います」 
 それだけ言うと赤松はぐるりと会議室の面々を眺めてから椅子に座った。頷くのは西園寺派、薄ら笑いを浮かべるのは烏丸派。どちらかにきれいに分かれている様を見て、先日の旧友である嵯峨の警告が思い出されてきた。
「数を用意できる即応部隊となると君の第三艦隊が動くと言うことになるのかね?」 
 先の大戦で一番多く戦死者を出した赤松達より十歳くらい年上の世代の将官が声をかける。その声の主本間中将は現在部隊を第六惑星衛星系に展開させているが、越州謀反の知らせを受けて駆けつけた艦隊司令だった。どちらかと言えば主張としては烏丸派に近い意見の持ち主だが、軍の政治への介入を快く思わない彼の信念からこの場の誰もが彼の意見に耳を傾けるだろうと赤松は踏んでいた。
「鎮台府の戦力は対艦戦に特化したものが配置されているのは皆さんもご存知のとおりです。そしてこちらも対艦戦を考えればワシ……いえ、私の第三艦隊を当てるのが最良かと」 
 赤松は本間の言葉にそう答える。
 しばらく沈黙が場を支配した。そしてこの場の全員が手にした端末を眺めている西園寺基義首相の次の言葉を待ち続けていた。
「なら考えるまでも無いんじゃないかな。最適な部隊を最適な叛乱軍に当てると言う現場の意見に私が口を挟む理由は無い」 
 あっさりとそう答えた西園寺の口調に誰もが耳を疑った。帝都の防衛を主任務とする近衛師団を預かる醍醐などは椅子から転げ落ちそうな様子だった。
「よろしいのですか?」 
 隣で西園寺が見つめている端末を支えていた秘書官が分を忘れてそう叫んでいた。
「よろしいも何も……叛乱の一刻も早い鎮圧が現在の急務だ。なにかね……この中に私の命をとりたいと念じている人でもいるのかな」 
 この西園寺の冗談は笑えなかった。誰もが黙ってお互いの顔を見合わせる。赤松は噴出しそうになるのを必死にこらえながら周りの将官の顔を眺めていた。
 烏丸派の急進派として知られる中将の顔に渋い笑みが浮かんでいる。西園寺派でも慎重で知られる海軍大将は黙って目をつぶっている。それぞれ考えることは一つ。間違いなく西園寺は烏丸派の暴発を引き起こそうとしていることだけは誰の目にも明らかだった。
 しかし誰も赤松の第三艦隊の出撃を止めるものはいない。
 すでに議場の隅で立って会議を眺めていた秘書官級の佐官達は端末で各地の情報を集めているところだった。赤松のつれてきた別所と魚住もしきりと携帯端末をいじり始めていた。明石や黒田はすでに原隊に戻ってしまったようで姿が見えない。
「なにかな……そんなに急に騒がしくなっちゃって……僕はおかしなことを言ったかな?」
 とぼける西園寺。その視線の先には唇をかみ締めて西園寺をにらみ続けている清原の姿がある。
「では……時間も無いでしょうから解散と言うことで」 
 そう言うと西園寺は立ち上がった。そのまま誰とも目をあわさずに扉を開く秘書官。廊下から盛んにフラッシュの光が西園寺が出て行くさまを彩っていた。
 赤松は黙って端末を覗き見て膨大な数のメールを確認してげんなりとした後で立ち上がろうとした。
「赤松君!」 
 声をかけてきたのは以外にも清原本人だった。薄ら笑いを浮かべる剃刀と呼ばれる近づきがたい表情を見て赤松は苦笑いを浮かべた。
「本当に良いんだね?」 
「は?何がですか?」 
 とぼけて見せた赤松。その口調に肩透かしを食ったと言うように目を見開いた後シンパの面々を連れて会場を出ようとする清原。
『そちらの考えは読めてんで』
 赤松はそう心の中で笑っていた。



 動乱群像録 23


「久々よのう」 
 明石はそう言うと大荷物を背負った楓を見ながら乗り込もうとする胡州第三艦隊旗艦『播磨』を見上げた。帝都を離れて惑星胡州軌道上の第三艦隊の母港である予州は活気に満ちていた。先の大戦で大半の施設が破壊されたと言うのに跡も残さず改修された閉鎖型コロニーに接岸する戦艦や巡洋艦が並んでいる。
「壮観ですね」 
 楓はそう言うと立ち止まった明石の隣できょろきょろと周りを見回した。
「ここはワシ等は片道切符で出かけたモンや。ワシの知り合いもほとんど死んどる」 
 明石の言葉に表情を変える楓。確かに明石にとってはかつての特攻機を満載した輸送艦の母港としてこの施設が考えられていることを思い返していた。
「ええねん。気にせんといてや……行こか」 
 そういい残してそのままタラップを進む。すれ違う兵士達の表情は硬い。誰もがある程度覚悟はできていた。
 烏丸派の重鎮と目されている南極基地の池幸重大佐や安東貞盛の陸軍第一教導連隊。どちらも彼らが去れば帝都を占拠にかかるのは目に見えていた。その結果帝都の彼らの知り合いが戦火の中に置き去りにされる。その予定は変えられないと誰もが思っていた。
「おう、来たか」 
 『播磨』の隔壁に寄りかかってニヤニヤ笑っているのは魚住だった。
「ずいぶんな物資やないか。やはりとんぼ返りは勘定のうちか?」 
 明石の言葉にただなんとなく頷きながら荷物の重そうな楓に手を差し出す魚住。楓は彼を無視して『播磨』に乗り込む。
「……まあ誰でも同じことを考えているだろうな。今回の内戦はもう始まっているんだ」
 魚住は『内戦』と言う言葉を使った。そのことに明石もすでに覚悟はできていた。
「権力争い……ワシも寺の息子やさかい結構体験しとるが……ええもんちゃうで」 
「いいも悪いも無いさ。もうこの国には二つの派閥を並べておくような余裕は無いんだよ……案内するぞ」 
 静かに魚住はそう言うと先頭に立って質素なつくりのエレベータに明石達を導いた。
「いいんですか?別所さんや赤松提督には……」 
「いいんだよ。別所も赤松のおやっさんもそう言う気遣いは好きじゃないから」 
作品名:遼州戦記 播州愚連隊 作家名:橋本 直