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フレンドボーイ42
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KE3of4 炎の龍の名を欲しいままにして

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 エンリューという名前は、書くことはおそらく一生ない、という前提をおいて、もし漢字で表記するならば、『炎龍』となる。彼に炎の力が宿っていたなど当時の彼の父親が知っているはずもなく、母も知るはずがないので(一人になり、ロンバオに拾われて鍛冶屋になってから気付いた能力であったから)おそらく炎をまとって舞う龍のごとく、大きな男になれ、という意味なのだろう。…どだい無理な相談だ、とエンリューはつぶやく。
 彼は戦士なんかにはなれなかった。剣を持って戦いにゆくのも、銃を持って戦いにゆくのも、イヤだった。今では昔から伝わる魔導剣の他、ビームソードやウェーブリングなどいろいろな分野が隆盛したこともあって、かなり多くの武器が登場しているが、いずれも持ちたくなかった。不安なのである。彼が戦いにいくことで、もし仮に戦闘能力としての炎の力を持っていると言うことがわかれば、アシッドスパークは再びねらいにくるだろうからだ。
 (あの屈強で頑強なお父さんを、いとも簡単に殺せたアシッドスパークなんかに、僕が勝てるはずがないよ)
 エンリューは歩いて、スイメンハ村にやってきた。この世界で発展した術式は魔術、波動術、念術、霊術、そして科学技術。まだまだ未開発の術式も多く存在する中、彼はせめて既存の武器ならばどのようなものでも修繕ができるように成長したいと思っていた。これはまた師・ロンバオも彼に言ったことである。
 「俺みたいに剣ばかり直して食っていける鍛冶屋はこれからの世の中じゃいないだろうと思う。お前がもしこれで飯を食いたいならば、いろいろ打ったりできるようじゃなかったら話にならないだろう。だから修行の旅に行くのは賛成だ」
 のたれ死んでは困る、のだそうだ。仮にも師としてだけれど、世の中の常識なども含めてとにかくいろいろなことをたたき込んでくれたのは、師が自分の妻子を亡くし、路頭に迷っていた子供を、自分の子供と同い年だったから弟子にしようと思っていた位なのだから。
 当時はまだ9か10くらいの年頃だったエンリューは、目の前でみた凄惨な出来事と自分の名前は覚えていても、靴をそろえるとか食べ物を食べる前には「いただきます」というとか、人のうちにはいるときは「おじゃまします」というとか、そういうことはままならなかったし、今じゃ笑い話だけれど、箸の持ち方すらひどいものだった。当然九九も知らなかったし、自分の名前以外の文字も表記できない子供だった。それをすべて教えてくれた師匠。元気にしているのかどうか、と心配に思われる。
 (師匠はタバコも酒も好きだからな)
 師匠はそれでも女遊びはしなかったし、麻薬も吸わなかった。現実逃避という意味ではタバコや過度の酒も悪いには悪いが、しかしそれでストレス発散になっているのは見えていたから止めなかった。悪いことをしなければ殴るような人でもなかった。そんな師匠の名前はロンバオだが、漢字で書けば「龍包」となる。エンリューなんか足元に及ばない男の名前だろう。
 「しっかりやってこい」
 そういわれて送り出された彼は、少なくとも精一杯の努力をする義務がある。

 スイメンハ村の波動というのは、まあ波によるエネルギーを効率よく取り出して使う訳だが、波といえども水面波、光波、音波、熱波、地震波、電磁波などさまざまなものがあるし、その中には精神波(サイコウェーブ)なんかのような、超能力とやらとどこが違うのか、というようなものも存在する(まあ、科学と魔法だってなにが違うのかわからないものも実際多くあるわけだが)。それを封じ込めた金属の中の波を刺激しないように打たなくてはならないのだという。魔導剣などのように、それを感じる力すらなければ全く意味がないから、当然感じる修行からやることになる。彼は決して弱音を吐かないけれど、それだけでなんとかなるものでもない。頑張ったから必ずできる、というのであれば、別にここまで皆でいろいろやる必要もないのだから。
 つまり常時波に当て続ける。海に半身浸かって様々なものを当てられ続け、彼の体がおかしくなる一歩手前まで当て続ける。だから一日それで過ぎていく日には自分は大丈夫だろうか、なんて心配をする。
 その地域の鍛冶屋・アロンは、彼にはそもそもの素質はあることは見抜いてはいたが、波を当て続けることによる精神的不安定に、彼がうまく対処できるかに気をすり減らしていた。そんなアロンの娘、リュズギャルは、エンリューをみて、バカバカしく感じた。炎の力なんか持っていて、負けるような相手なんていたとして、そこまでせいせいと負けられるならば本望じゃない、と。彼がどうしても愚かに見えて仕方がない。リュズギャルはエンリューをみて、弱虫としてしか認識できなかった。