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遼州戦記 墓守の少女

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 嵯峨の言葉と共に、嵯峨から逃げることで精一杯の一式の背中をロングレンジでのレールガンの火線が貫いた。火に包まれる僚機を見て背を見せて逃げ出す一式。 
「追いますか?」 
「御子神の。お前の目は飾りか何かか?レーダーを見ろ」 
 クリスも地図に目を移す。そこには北兼軍以外の所属を示すランプが点滅していた。
「残存戦力?」 
 クリスの言葉に嵯峨が振り返り笑みを浮かべた。
「共和軍も無駄に戦力を捨てるほど馬鹿じゃないでしょ?それにこんな森の支配権を争っても無意味だってことぐらい分かるでしょうしねえ」 
 殺気の消えた嵯峨の顔がにやりと笑みを浮かべてクリスの前にあった。
「柴崎!お前が一番近い。所属を確認しろ。それとセニアと御子神はバックアップにまわれ。俺はそのまま距離をとって追走する」 
 嵯峨の言葉に不承不承従う柴崎。
「どこかの工作部隊ですか?」 
「アサルト・モジュールで潜入作戦ですか?アステロイドベルトならいざ知らず、ここは地上ですよ。それに偵察のためだけの俺達の目に触れないでの高高度降下なんて突飛過ぎますよ。上を警戒飛行している東和軍の偵察機や攻撃機もそれほど無能ぞろいじゃないでしょう……」 
「うわ!」 
 嵯峨の言葉が終わらないうちに、柴崎の悲鳴が四式のコックピットに響いた。映っていた柴崎の画像が乱れ、次の瞬間には衝撃に見舞われたというようにシートにヘルメットを叩きつけている姿が映った。
「柴崎!」 
「御子神焦るな!柴崎、状況を報告しろ!」 
 地図の上で所属不明機と柴崎の二式が重なっている。嵯峨はすぐさま加速をかけた。
「食いつかれました!この馬鹿力!コックピットを潰す気か!」 
 森のはずれ、二式が見たことも無い白いアサルト・モジュールに組み付かれている様がクリスの目に飛び込んできた。
「中佐!助けてくだ……うわ!」 
 柴崎の二式の右腕がねじ切られる。不明機の左手は二色のコックピットの装甲版を打ち破ろうとしていた。
「御子神!組み付け!」 
 嵯峨はそう言うとさらに白いアサルト・モジュールへと接近した。
 着陸した御子神機がレールガンを構えながらじりじりと柴崎機に組み付いている白いアサルト・モジュールに近づく。
「馬鹿か!発砲したら柴崎に当たる。とっとと組み付け!セニアもついてやれ!」 
 嵯峨の言葉にレールガンを捨てた御子神の二式が白いアサルト・モジュールに組み付いた。しかし、白い機体は止まろうとしない。御子神機を振りほどき、さらに柴崎機のコックピットに右腕を叩きつける。
「セニア、手を貸してやれ!いざとなったら俺も組み付く」 
 振りほどかれた御子神機、それにセニアの機体が絡みつくとさすがに動きが鈍くなる。
「助けてください!嵯峨中佐!」 
 相変わらず涙目で懇願する柴崎。サーベルの届くところまで来た嵯峨はそのまま白い機体見つめていた。その圧倒的なパワーはクリスの想像を絶していた。これほどの出力を出せるアサルト・モジュールなど聞いたことが無かった。
「ちょっと待ってろ!」 
 嵯峨はそう言うと白いアサルト・モジュールの右足の付け根にサーベルを突き立てた。白い機体はバランスを崩し倒れる。絡み付いていた御子神、セニアの機体がもんどりうって倒れこんだ。
「おい!柴崎。生きてるか?」 
「ええ、まあ……イテエ!」 
 柴崎の悲鳴が響く。ばたばたとバランスを崩して逃げようとする白いアサルト・モジュール。セニアと御子神は関節を潰しにかかる。だが、抵抗は衰えるようには見えなかった。そこに増援として森の中から重火器を積んだ装甲ホバー二機が現れた。
「海上(うなかみ)、少し待て。とりあえず御子神とセニアがそいつを拘束するまで……」 
 タバコに火をつけた嵯峨の言葉が切れる前に白いアサルト・モジュールがねじが切れたように動きを止めた。セニア機は間接から煙を上げながら傾き、御子神機も限界だと言うように白いアサルト・モジュールから手を離す。そんな白い機体のコックピットが開いた。小さな影が中に動いているのが分かる。
「子供?」 
 クリスは驚きの声を上げた。開いたコックピットから身を乗り出して辺りを見回すのは、ぼさぼさの髪の十歳くらいの子供だった。
「海上!撃つんじゃねえぞ」 
 ホバーから飛び出していく機動歩兵部隊を制止した嵯峨は四式のコックピットを開いた。彼は朱塗りの鞘の愛刀長船兼光を手に、そのまま地面に降り立つ。クリスもまたその後に続いた。ホバーから歩兵部隊隊長で先の大戦からの嵯峨の部下である海上智明大尉に率いられた部隊が銃を構えて白いアサルト・モジュールを取り巻いた。その後ろにはハワードがカメラを構えてコックピットの子供を撮るタイミングを計っていた。
「とりあえず下りろ!」 
 兵士の一人が子供に銃を向けた。
「おいおい、待てよ。餓鬼相手にそんな本気にならなくても」 
 嵯峨はそう言うと歩兵部隊に銃を下げるように命じた。
「おい、ちびっ子。言葉はわかるか?」 
「ちびっ子じゃない!アタシはナンバルゲニア・シャムラード!青銅騎士団団長だ!」 
 ぼろぼろの山岳民族の衣装を着た少女はそう叫んだ。


 従軍記者の日記 11


「青銅騎士団ねえ。ムジャンタ王朝末期のムジャンタ・ラスバ女皇の親衛隊だな。じゃあナンバルゲニア団長。君の仕える主は誰だ?騎士なら主君がいるだろう?」 
 タバコをくわえたままニヤニヤしながら嵯峨は少女に近づいていく。
「アタシの主はただ一人。ムジャンタ・ラスコー陛下だ!」 
 少女がそう言いきると嵯峨は腹を抱えて笑い始めた。クリスは一瞬なにが起きたのかわからないでいたが、少女の主の名前を何度か頭の中で再生すると、その言葉の意味と嵯峨の笑いがつながってきた。
「おう、そうか。で、そのムジャンタ・ラスコー陛下はどこに居られますか?騎士殿」 
 笑いを飲み込んだ嵯峨はそう言うとさらに少女に近づいていく。
 重機関銃を載せた四輪駆動車が到着した、そこから下りた明華とキーラは歩兵部隊を下がらせて一人、笑顔で歩いている嵯峨を見つけた。彼は白い見たことも無いアサルト・モジュールのコックピットに立つ少女に向けてニヤニヤと笑いながら近づいていく。二人ともいつもの嵯峨の悪い癖を見たとでも言うように半分呆れながら状況を観察していた。
「それは……わからない!」 
「威張れることじゃねえが俺は知ってるよ。その青っ白い陛下の成れの果てが何してるか」 
 嵯峨はそう言うと再び笑いそうになるのに耐えていた。少女は不思議に思いながら歩いてくる嵯峨の前に降り立った。彼女も恐る恐る嵯峨に近づく。
「意外にそいつはお前さんの近くに居たりするんだなあ」 
 嵯峨はここまで言うと耐え切れずに爆笑を始めた。取り巻く彼の部下達は半分は呆れ、半分は笑いをこらえていた。ハワードは先ほどからシャッターを切っている。彼なりにこの光景が一つの歴史の転換点になると思っているのだろう。クリスはただ嵯峨の言葉がどこに着地するのかを見守っていた。
作品名:遼州戦記 墓守の少女 作家名:橋本 直