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遼州戦記 保安隊日乗 5

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「は?それはその店のキャラクターだろ?……すると何か?あいつにそのちびのコスプレでもさせるのか?」
 要の言葉にあきらめたような大きなため息をつくアイシャ。その様子がさらに要をいらだたせているのがわかる。だが誠には迷いが無かった。
 ささやかなメロディーが流れドアが開いた。誠は慣れた足取りでエレベータの前の書店を素通りする。その確固たる足取りに少しばかり驚いたような表情を浮かべる要。そしてアイシャもそんな要を興味深そうな視線で観察している。
 文具店がある。その前でも誠は迷うことなく素通りを決める。さすがにこの時は要の表情は驚きを超えて不思議そうなものを見つけたシャムのそれと変わらなくなっていった。
「ここまで来てわからないの?」 
 アイシャの挑発の言葉。だが、要は素直にうなづいてしまう。
「あ!」 
 突然要が叫ぶ。そして手を打つ。その視線の前には画材屋があった。
「そうか、絵を描くのか……なるほど。それは考えたな、神前にしては」 
 少しばかり声が震えている。アイシャはニコニコ笑いながら早速アクリル絵具を物色し始めた誠を覗き込んだ。
「ずいぶん慣れた足取りだったけど……この店は?」 
 とりあえず店内をざっと見回す誠に声をかけたアイシャに微笑が浮かぶ。
「昔から良く来ていますから」 
 誠はそう言ってアクリル絵具が並ぶコーナーを見つけて緑色の絵具を一つ一つ手に取った。
 手に取る絵具をしげしげと見つめていた誠に要がかごを持ってきた。
「使えよ」 
 いかにもぶっきらぼうにかごを差し出す要。そう言われて誠は黙ってかごを受け取る。手にしているのは誠が一目見たときから惹かれていたつやのあるエメラルドグリーンの絵具。そして肌を再現しようと白の様々なバリエーションを確かめる誠。
「結構本格的に描くのね。縁側にでも座ってもらって、そこで直接カウラちゃんのスケッチでもするの?」 
 アイシャの言葉に誠は首を振った。
「そんなモデルにするなんて言ったら……」 
「アタシが殺す」 
 断言する要に愛想笑いを浮かべながら絵具を選んでいく誠。
「確か筆とかはあったはずだから……」 
 そう言って今度は白い紙を手に取る。
「もしかして誠ちゃんの描く萌えキャラ系にするわけ?」 
「まあ少しその辺は後で考えますよ」 
 次々と必要なものを迷わず選んでいく誠にしばらくアイシャと要は見入っていた。店員はかつて大学時代にここに通っていたときとは変わっていた。メガネの小柄な女子高生がバイトでやっていると言う感じの店員は誠が迷わずに画材を選んでいく様をただ感心したように眺めている。
「じゃあ、これでお願いします」 
 かなりの量になる。その時誠は少しばかり寮に画材を送りすぎたことを思い出して後悔した。
「へえ、いいなあ。アタシも描いてくれないかな」 
 小声でつぶやいた要。そこに顔を近づけるのは予想通りのアイシャの反応だった。
「なに?要ちゃんも描いてほしかったの?ふーん」 
「な……なんだよ。気持ち悪りいな」 
 一歩下がってにやけた表情のアイシャをにらみつける要。
「ちなみに私は4月2日だから」 
「なんだよ!テメエが描いてほしいんじゃないか!」 
 要の突っ込みを無視するとアイシャはそのまま絵具のコーナーに向かう。誠は苦笑いを浮かべながら必死にレジの作業をしている店員を見下ろしていた。
「えーと。二万八千円です」 
 店員の言葉に財布を取り出す誠。そしてその隣にはいつの間にかアイシャが紺色の絵具をいくつか持って並んだ。
「あのーお客さん。そちらもですか?」 
「ああ、いいわよ私が別に払うから」 
 財布を手にしたまま誠はアイシャを引きつった笑顔で見つめた。
「なにやってんだかなあ。急げよ!待ち合わせの時間まですぐだぞ」 
 要はそう言いながら複雑な表情で二人を見つめていた。



 時は流れるままに 17


「アイシャ……」 
 駅前の下町の風情のある洋食屋。スパゲッティーナポリタンを食べ終えたカウラは、好物のメロンソーダをすすりながらあきらめたように目の前に置かれたアイシャの荷物に向けてつぶやいていた。
「だから言ったんだよ、私は」 
 ようやくステーキを食べ終えた要が皿を下げる店員をやり過ごしながらつぶやいた。フィギュアの入っている袋からカウラはその中身が何かを想像できていた
「だって!やはり自分がもらってうれしいものが……」 
「相手がもらってもうれしいとは限らないのよ。ねえ、ベルガーさん」 
 カウラの隣に座ってオムライスの乗っていた皿が運ばれていくのを見ながら薫がつぶやく。さすがに薫の言葉にはアイシャも愛想笑いで自分の失態を認めて見せなければならなかった。
「それにしても今度はなんだ?夏はスクール水着だったが……」 
 次にカウラの視線は目の前の見たことの無いブティックの袋に向かっている。誠も要もそれについては何も言う気は無かった。
「セーラー服か?巫女装束か?」 
 ストローから口を離してカウラはそうつぶやいた。
「惜しい!」 
「全然惜しくないわ!」 
 アイシャの隣に座っていた要が思わず突っ込んだ。後頭部を叩かれて思わず店員が運んできたコーヒーに顔から突っ込みそうになるアイシャ。
「危ないじゃないの!」 
「危ないのはテメエの頭だ!メイド服なんていったいどこで着るんだ?」 
 要の剣幕。呆れてものも言えない状態のカウラ。気まずそうにコーヒーを並べながら店員はすごすごと引き上げていった。さすがにとめるべきかと迷う誠を薫が制する。
「意外と誠はそう言うの好きなのよ。小学校の時からそう言う絵を描いていたじゃないの」 
 事実だけに何もいえない誠。そんな彼をタレ目ながらも明らかに恫喝している視線を送ってくる要。おずおずとカウラを見た誠だが、興味深そうな純粋な視線を誠に向けてくるカウラの姿がそこにはあった。
「そう……なのか?」 
「食いついたよこいつ!良いのか?それで良いのか?」 
 要を無視してカウラは視線をアイシャの買い物袋に移す。それを見て得意げに胸を張りながらコーヒーをすするアイシャ。
「私も考えたのよ。今度のコミケは一般客として行く予定だけど、一人ぐらいコスプレする人がいても良いんじゃないかと思って」 
 得意げなアイシャ。カウラは袋と誠を見比べながらしばらくじっとしていた。手にしていたメロンソーダのストローがゆっくりと指先から離れていく様を誠はじっと見つめていた。
「一人?出てくる前に荷物が届いたんだが……」 
 カウラの言葉にアイシャは驚いたように視線を上げる。
「誰から?もしかしてシャムちゃん?」 
 アイシャの言葉にカウラと薫が大きくうなづくと力なくアイシャはいすにへたり込んだ。
「他人事を気取ってるからそう言う目にあうんだよ。カウラはその荷物を開けたのか?」 
 痛快そうに笑う要。カウラは首を横に振る。
「そうか、あれじゃないか?この前作った自主映画の怪人の衣装」 
「それなら当然あんたのも来てるわよね」 
 アイシャの言葉にびくりと体を震わせる要。
「そうよねえ、あのお話では要ちゃんが裏切りの機械帝国の女将軍の役だったもの。私はただの端役のメガネ教師」