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その後の、とある日曜日の話

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力尽きた日曜日の朝



 携帯電話のアラームに設定してある、ガリガリとしたギターの音が耳に突き刺さる。ボーカルの少女の甲高い声がバンドサウンドにのっかって、わたしの頭を覚醒させていく。うう、眠いよう、まだ寝ていたいのに。いつもの朝と全く同じことを考えると、目覚ましを止める。午前10時。家族はとっくの昔に朝の準備をすませ、家にはわたししかいない。イコール、ここで起きないと、遅刻確定。
 手探りで充電器のコードを探し、わたしはそれをぐいっと引っ張った――ら、ごろりと落ちてきたそれは携帯もろともわたしの頭を直撃した。がつん、マンガの擬音のような音がまさに脳内で響いた。いったぁ…。
「んー…う」
思わず唸った自分の声に眉を顰める。ああもう、ほんと無理。気の抜けてる自分の声って、ほんと、無理。正直、声はあまり低い方でもないんだけど、高い方でもない。寝ぼけなまこの自分の声は、自分以外の誰が聞いたって、きっと不快だわ。
 二階に位置するわたしの部屋は、陽当たりがとても良い。おまけにカーテンの隙間からは、じりじりと容赦の無い夏の日差し。規格外のサイズの窓に合うカーテンを設置していないこの窓は、カーテンを完全に閉め切ってもほんの少し窓がはみ出す。イコール、この季節は暑くて仕方がない訳で。手探りで扇風機のスイッチを入れて、汗びっしょりになった身体を冷やす。ああ、涼しい。至福の時間。
 しかしずっとそうしているわけにもいかないわけで。のそりと起きあがると、部屋のアナログ時計を見上げる。9時55分。うん、いい時間。
 立ち上がって洗面所へ行き、そのまま服を脱ぎ捨てるように洗濯機の中へ押し込むとシャワーを浴びる。目を閉じて、身体にシャワーの冷水が当たるのを感じる。意識が、覚醒していく。そのままバスタオルでよく体を拭いて、鏡を見て――絶望する。
 今更絶望まではいかなくなったけども、わたしは自分の裸体ほど嫌いなモノはなかった。がりがりで薄っぺらい身体、見事に突き出している怒り肩――オトコの、身体。
 悪い部分ばかりではないことはわかっている。背が高いことは、イコール後に女の身体になれたとしたらちょっとスタイル良く見える。色が白いのは女装に有利。けれど、土台が根本的に別のモノなのだ、この身体は。
 自分を不良品だと思ってきた。けれど、それは間違っていると気付いたのは割と最近のことで。不良品ではなく、少し間違えた形で生まれ落ちてしまっただけ。それだけのこと。間違えたものは、元に戻せばいい。
 性別適合手術の金額は、とんでもない額に及ぶ。まだいろいろと危険も多いこの時代、そう急ぐことはないのだ。わたしはわたしのペースでやっていく。貯金も、この今の生活も。
 ひとまず髪の毛はタオルで纏めて、普段着にしている黒いロゴの入ったぶかぶかのTシャツを頭から被り、あらかじめ洗面所に掛けておいたオーバーオールを着た。

 不意に、ハーフパンツのポケットに落とした携帯電話が目覚ましとは違うサウンドを奏で始めた。アップテンポに急かされるように携帯電話を取り出すと、表示された名前をよく確認もせずに通話ボタンを押した。はあ、誰よ、この忙しい時間帯に。
「もしー、だれー?悪いけど後で掛けなおすよー」
「ちょっ、と、待って!秋緒っ!」
「…なんだ、かのこ。悪いけど今忙しいの、後で掛けるわ」
耳慣れた声に電話を切ると、再びポケットに落とし込む。顔に化粧水を叩き込みながら、一度大きく欠伸をした。ああ、眠い。一学期に少しサボりすぎたせいでレポートの提出が溜まっているいるわたしは、ここ数日まともに眠っていない。それでも夕べある程度まで終わらせて、あとは清書のみだ。そう、今日の夜にでも……わたしはふと、洗面所に掛かっている小さいカレンダーを見上げた。あれ、今日って……
 再びわたしのポケットで、さっきと同じメロディが鳴り響く。携帯を取り出して通話ボタンを押すと、わたしは開口一番こう問いかけた。

「かのこ、もしかして今日日曜日?」
「もしかしなくともそうなんだけど」
それを聴いた瞬間、わたしは全身が脱力していくのを感じていた。