避難口
いつもの決まり文句だ。
彼女は人に嫌われることを極端に恐れている。…いや、それは人として当たり前のことだ。
彼女の場合、問題はそのあとなのだ。
誰かが自分を嫌っている。
…そう感じた後の彼女は幽霊を極端に恐れる子供の様に顔面蒼白になりかたかたと震える。
もちろん僕の前でだけだ。
その時は平気な顔をする。まぁ失礼しちゃうなんて逆に怒ったりする。
しかし僕と二人きりになったそのとたん、彼女の足元は劣化した鉄屑の様にぼろぼろと崩れ、もろいガラス製の珠をぐしゃぐしゃと踏み潰されたかのような精神になる。
そんなとき彼女は泣いてすがる。
あなたがいるから大丈夫よ、なんて強がりを言い、でも本とは苦しくて苦しくてたまらないの。と言う。
肺が痛いの、何だか気持ちが悪くて暴れたくてでも何もしたくないの。…あぁ私あのこをきっと傷付けたんだわ。だからこんなにもみんな私を嫌うんだわ。どうすればいいのどうすれば…。
彼女は泣きじゃくる。
もちろんまだ何も起きていない。彼女は事前にシュミレーションしているのだ。この辛さが実際に起きたときの苦しみを軽減させるために。
…それこそが彼女を人の倍苦しめている理由になることを彼女は知らない。
僕は彼女を愛してる。
あぁでも、もしも逆の言葉を囁いたら彼女はどうなるだろう?
その瞬間本物の彼女は世界から消え失せる。
僕はちゃんとしっている。
だから僕は死ぬまで彼女に愛を囁くのだ。