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遊佐 はな
遊佐 はな
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政府公認秘密機構「なんでもや」。

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第1章-はじまり-


真っ暗な中を必死に走っていた。
特に何かに追われているわけでもない。それでも走るしかなかった。

居場所がない…

7つのときに父親が死んだ。
それから15のときに母親が再婚した。
連れ子同士で再婚した相手の男性は、自分の子供には熱心なのに対し特にボクには興味がない。
殴られたこともなければ、特段話をしたこともない。
同じ屋根の下に一緒に暮らしているのに、顔を合わせることもない日が何日も続くようなこともあった。
よく、長年連れ添った夫婦を「空気のような関係」と呼ぶこともあるが、僕のことは「二酸化炭素」としか思っていないようだ。
二酸化炭素は環境中にごくありふれた物質で、その有毒性が問題となることはまずない。
けれど、空気中の二酸化炭素濃度が高くなると、人間は危険な状態に置かれる。
それが家の中でも起こった。
「ボク」が家に居ることで、母親がストレスを感じるようになった。
ボクが居ることで父親とうまくいかなくなったようだ。
「お前が居るから…」
恨めしい言葉を何度聞かされたかわからない。
そのうち、その言葉は母親の口からだけではなく、父親の口からも出始めた。
父親の口からも出るということは、父親の連れ子の口からも飛び出してくる。
そのうち、家族の中でボクだけが浮いていった。
「グズ」「ノロマ」「なぜ生まれてきた」そんな言葉が当たり前のように飛び交うようになった。
家の中で居場所がない。
逃げおおせるのは学校だけだった。
友達や部活、家での時間に比べたら学校での生活時間のほうが長い。
だからボクは逃げる場所を「学校」にした。
そこがボクの居場所だった。
けれど、そんな小さな居場所ですら、ボクには与えてもらえなかった。
「学費未納」
そんな通知文が届く。
それからすぐに担任から「ご両親から退学届けが出されている」と聞かされた。
「お前に払う金なんかないよ」
そういわれた気がして、ボクにはもうどこにも居場所なんかないと思った。
学校という居場所にすらに行けなくなったボクを待ち受けていたのは、まさに地獄だったように思う。
この真夏のさなか、クーラーも窓もない部屋に一日中入れられた。
食べるものもほとんど与えられず、思考回路すらおかしくなり始めたある日。
玄関から話し声が聞こえてきた。
近所のおばさんだ。
回覧板でも持ってきたのだろうか、母親と笑い話をしている。
今しかないと思った。
ボクはありったけの力を振り絞り扉に体当たりした。
1度目の体当たりで玄関からの話し声が途絶えた。
「どうかしたの?」
おばさんの声。
「いえ。なんでも」
知らぬふりをした母親を思い浮かべて2度目の体当たりをすると、扉がわずかに開いた。
鍵のついていない扉の前には扉が開かないようにたくさんのダンボールがおかれていた。
ボクは3度目の体当たりをした。
積みあがったダンボールが崩れ、なんとか1人通れるような隙間ができる。
「亮ちゃん?」
顔を出したボクにおばちゃんが驚いた声をあげた。
「亮ちゃんどうしたの?!」
おばちゃんの驚いた声と、母親の叫び声が重なった。
母親の顔からすっと血の気が引いていく。
ボクはそんな2人の横を全力で駆け抜けた。
靴もはかず、薄汚れ擦り切れたTシャツと穴の開いたハーフパンツ。
それでもボクは走り続けた。
追ってこないように。
あの魔物たちがボクに追いつけないように。
ボクは必死に走った。

行くあてもなく、よろめきながら歩いていた。
これからどうするとか、何がしたいかとか、そんなことも浮かばない。
逃げ出せたことに安堵するよりもただ空虚だけがどっと押し寄せる。
人ごみの中、空を見上げた。
太陽の光が青と重なって、優しい色に見えた。
この優しさに包まれたい。
もっと触れていたい。
ボクは光に吸い寄せられるように歩いた。
手を伸ばし少しでも近づきたいと必死に訴える。
ボクの居場所…
温かくて優しいあの場所へ…
ボクはただ手を伸ばした。