指 恋
那由が目を開けた時、すぐ隣に、長井医師がいた。
「医師(せんせい)?」
長井医師の瞳が潤んでいる気がして、那由が小首を傾げる。
「良かった……。君にもしもの事があったら、僕は……」
握力のなくなった那由の手を握り締めて、医師が小さな声で話し出す。
「……僕には、弟がいた。両親とは死別していて、この世でたった二人きりの家族だった。その弟がある日、病に倒れた」
何の事か分からずに、那由は医師の話に耳を傾ける。
「何もする事がなく、ただ生きているだけの弟の下に、ある日、メールが届いた」
那由がハッとして長井医師を見つめた。
頷きながら医師が話を続ける。
毎日やりとりされるメール。笑顔の戻った弟。いつか見つけ出すのだと、はにかみながら笑う顔に、恋をしているのだと気付いた兄。
「君のお姉さんが亡くなった日、弟も……」
二人は互いに見つけ合ったのだ。
「弟の代わりに、義務でメールをしていた……つもりだった」
那由が静かに首を振る。
自分はこの兄弟が探していた“姫”ではないのだ。義務でもなんでもなく、姉の“王子様”に横恋慕していただけの、ただの“妹”。
「姉は、もう、死んで……」
「僕は、君と、メールをしていた」
「……でも……」
「あの夜に送ったメールは、本心だよ」
“王子様”にさようならを告げた夜にきたメール。