指 恋
病室のドア窓越しに見える人影が、フッと溜息をついた。その直後、人影が入室してくる。
「やあ」
担当の長井医師だった。
「どうされたんですか?」
ベッドに横たわった那由が首を傾げると、長井医師は笑いながら首を振った。
「ちょっとね。連絡の取れない友人がいて。……と、プライベートだよ、那由ちゃん」
おどけた表情に那由もつられて笑う。
「はい。握手」
那由の手を長井医師が取り、握力を測る。長井医師の大きな手を那由の手が握り返す。
「うん。少し回復したね」
弱り始めた筋力は、姉が入院している頃はただ黙って見ているしかなかったのだが、今は緩和薬が開発されていた。
「ほんの少しずつだけど、研究も開発も進んでいる。きっと、治るよ」
那由の手を握り返して長井医師が微笑んだ。
「おっと!」
胸ポケットのPHSの振動に跳ね上がって驚く長井医師。それを見て、那由がクスクスと笑う。
「那由ちゃん。笑い過ぎ!」
「だって……。医師(せんせい)ってば、ピッチが鳴るたびにいちいちビックリするんだもん」
「繊細なんですよ、僕は」
大きな身体で咳払いする姿にまたもや那由が笑い出す。
「失礼だな」
笑いながら那由の頭をそっと撫で、胸のPHSを取り出しつつ長井医師が病室を出て行く。
「おう! 何度連絡したと思ってるんだ?」
ドアが閉まり、那由が枕元の携帯へと手を伸ばす。
「……良かった。掴めるわ」
携帯を手にするのは5日振りだ。切れていた電源を入れると、すぐさま、着信のアイコンが表示された。