指 恋
「那由ちゃん! 那由ちゃん!」
姉が頬を染めて那由を呼んだ。その興奮した仕草に、何事かと慌てて駆け寄る。
「何よ、これ。“いかにも”ぽくない?」
携帯を覗き込んだしかめ面の那由とは対照的に、姉が静かに首を振った。
「きっと、この人……」
大切そうに掴んだ携帯をそっと抱き締める。
『からかわれてるだけだよ』
そう言いそうになって、言葉を飲み込んだ。嬉しそうな姉の顔。折角の“夢”を摘み取る勇気は那由にはなかったのだ。
「ね。なんて返そうか?」
初めて王子様に会った白雪姫のように、姉が溜息をついた。
「まずは、名前と年齢?」
なんと答えていいのか分からない那由が返したとんちんかんな答えに、
「そんなの、ダメよ」
姉が笑って首を振る。
「魔法使いだったら大変だもの」
「だって、さっきは“きっと、この人”って」
「99%、そうだと思うわ。でも、油断は禁物!」
そう微笑むと、“返信”のボタンを押す。