指 恋
「那由ちゃん。いくら大事だからって、携帯は病室に置いてこなくちゃ」
うっかり持ってきてしまった携帯。看護士が怒った顔をして……すぐさま笑顔に戻る。
「廊下までなら、良しとしましょ」
「携帯は女子の必需品ですからね」
迎えに出ていた長井医師がクスリと笑った。
「てか、凄いね、ストラップ」
白とピンクのポンポンが交互に輪になったものの脇に、白いクマとピンクのうさぎが付いている那由の携帯を見て、長井医師が呟く。
「まるで、魔法の森の住人だ」
「え?」
「あら、長井医師。乙女チック!」
「昔、そんな話を聞いたんですよ」
「誰に?」
「さぁ……誰だったかな……。それより、那由ちゃん、検査、検査」
「携帯は預っておくわね。大丈夫よ、中を見たりしないから」
看護士に微笑まれ、那由は検査室の扉をくぐった。
「寛大ですね、谷川さん」
「この携帯ね。那由ちゃんのお姉さんの形見なのよ」
那由の姉も同じ病気で亡くなったことは、長井医師も知っている。
「そうだったんですか……」
寛大な処置の理由に頷きながら、長井医師も検査室へと入って行った。