指 恋
返ってきたメールに、思わず窓の下を見る。
病院の中庭の木々の葉が落ちて、オレンジ色の絨毯のようだ。その絨毯の上を、患者やら看護士やらが行き交っていた。
対照的な空は水色。その高さが、秋の終わりを告げようとしているかに思えて溜息をつく。
「私が死んだら、今度こそ、“さよなら”ね」
携帯をそっと撫でながら那由が呟いた。
まだ自分でメールが出来るだけの握力も体力もある。けれど、いつこの手から携帯が落ちるのかは分からない。姉のようにゆっくりと進行していく者もあれば、発症から数ヶ月で死に至るケースもあるのだと聞いた。
「大丈夫! 挫けたりしないわ!」
ベッド脇のテーブルに置かれた姉の写真にガッツポーズを見せる。
そこへ、
「元気ね、那由ちゃん」
担当看護士が迎えに来た。今から検査に向かうのだ。
用意された車椅子に乗らなければならない。
「そうだ、那由ちゃん」
看護士が自分の後ろにいる白衣の男性に目をやった。
「今度、あなたの病気の担当グループに加わる、新人くん」
男性がペコリと頭を下げる。
「大学院の研究所ではエリートだったのよ!」
「やめて下さいよ、谷川さん」
恥かしそうに看護士の言葉を遮る。
「長井医師よ。大学院では、あなたの病気について研究していたの。きっと、治してくれるわ」
看護士と長井医師とが顔を見合わせる。
「えぇ。よろしくお願いします」
医学は年々進歩している。
那由は二人に頭を下げるのだった。