指 恋
「まぁた、そんなメール送って」
眩しすぎる陽の光に、部屋のカーテンをひいて那由はベッドの上の姉を見た。ひとつ上の姉が、クスクスと笑いながら携帯をパタンと閉じる。
「きっと、もうすぐ、誰かが見つけてくれるわ」
そう言うと、純真無垢な少女のように姉が微笑んだ。
小さい頃から病弱だった姉は、今は、那由よりもずっと小柄で華奢だ。何も言わなければ、那由の方が姉に見えるだろう。
「この空を渡って、きっと、私を見つけてくれるわ」
カーテンの隙間から見える青空を遠い眼差しで見つめる。
姉は物心付いた頃からこのホスピスに入院していた。病弱なその身体は年々弱っていき、いかなる治療も成果を上げる事はなく今に至る。
「ね、那由ちゃん」
儚げなガラス細工のように透き通った声で、姉が那由を呼んだ。
「なぁに?」
「“王子様”って、いるのよ」
「イギリスの?」
意味が掴めなくて、現実感たっぷりの惚けた返事をしてしまった那由に、姉が笑いながら首を振る。
「私達にとっての王子様。私には私の、那由ちゃんには那由ちゃんの、大切な人」
姉はここを出る事は出来ない。だから、自分から発信しているのだという。
「でないと、気付きようがないでしょう?」
まだ見ぬ王子様への、メッセージ。
それでも、今までロクな返信はなかった。嘲笑だったり、逆ナンだったり……。
「変なメールだとしか思われないと思うけどな」
言ってはみても、姉はただ微笑むだけだった。
そんなある日 ―――