指 恋
「“おやすみなさい”……と。はい、お姉ちゃん」
メールを打ち終えた那由が、姉に携帯を返した。
「ありがと……」
弱々しく微笑む姉の枕元に、そっと携帯を置く。もはや、姉にメールを打つ力は無く、那由が代わりに打っていた。夏の終わりにカゼをひいてから姉は見る間に体力を失い、自力での食事すら無理な状態だった。
「……那由ちゃん……」
「なあに?」
姉のブランケットをかけ直しながら、那由が微笑む。
「私が死んだら……」
「お姉ちゃん!!」
姉の口から出た言葉を否定するかのように、那由が声を荒げる。姉は知っているのだ、自分の命は、そう長くはないと……。
「私が死んだら、その携帯は捨ててね」
「“王子様”はどうするの?」
「“さようなら”って、告げて。でも、私の身に起こった事は、言わないで」
「でも!」
「あの人の想い描く“お姫様”でいたいの。こんな姿で死んでしまうなんて……」
やせ細った体は、パジャマを身に付けていても、その骨格が分かりそうなほどになってしまった。艶のある黒髪も、すっかり輝きを失ってしまっている。
「この携帯の中だけだけど、この人に会えて、よかった」
姉の涙に、その想いの深さを知り、
「そうだね」
那由は頷いた。