水葬と手紙
湖の淵に立って、松明を地に置き、暗い湖に向かって花束を投げ入れました。
ぴちゃん、と音を立てて水の上についた花束は、湖の中央に向かって沈みながら流されていきました。
私はただその影を追い、ついには見えなくなって、ゆっくりとその場に膝をつきました。松明で少し暑く感じ、同時に刺された右腕が痒みだして、その右手を湖に漬けました。
圧倒的な量の水に右腕が押しつぶされるように錯覚しました。しかし錯覚はそれ以上のものにはなりませんので、ただただ冷えた水が心地よかっただけでした。
そうしてしばらく湖と向き合ってから、来た時のようにのろのろと帰路につき、日が開けるころに帰ってきたのです。
「とまあ、こんな話があったのですよ」
老人が暖炉の火に向かって語りかける。煌々と部屋を照らし、暖めるその火はなんだかひどく危なげにも見えてしまう。照らされた部屋は壁はレンガ造りで、窓が一つ作りつけられている。窓の外は深深と雪が降り注いでいるのが見える。
老人の横では十六、七の少年がその話を聴いていた。
「彼女は、綺麗な水を見ているのでしょうか」
少年が問うた。見た目よりもはるかに大人びた、落ち着いた口調である。
老人は薪を暖炉に足し、しばらくの沈黙を於いてから、答えた。
「見ていることでしょう……。彼女のいる水には、彼女の両親も、私の花束もあるのだから。―――そのための、花束だったのでしょうから」
それきり、少年も老人も何も語ろうとはしない。
ただ雪の降る音が、部屋には響く。
〈了〉