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怪盗・仮初非力の結婚

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 ああ、何だ、と私は心の中で安堵の息を漏らした。――それもまた、面白そうな話ではないか!
 しかし続く再起の言葉に、私は耳を疑った。
「でも、私はまだ動くつもりはありません」
「はあ?」
「何故です、先生」
 私と女性が一斉に聞き返すと、再起は面倒そうに寝返りを打ち、私たちから顔を背けた。
「だからですね、その怪盗何たらは、本気で事件なんて起こす気はないんですよ。だから、私も面倒なコトはしないと言ってるんです」
「それが怠慢だというのだ、再起。怪盗だってお前を指名していたではないか。正体不明の怪盗に、名指しで捕まえてみろと言われたのだぞ? 探偵なら燃え上がるシチュエーションだろうに」
「それは凡百の探偵の話ですね。私のような名探偵には、縁もゆかりも関係もない話ですよ。それはそうと美寿寿さん、そろそろお腹が空いてきました。何か作ってくださ、ぐえ」
 再起の言葉は、私が首を絞めにかかったので、うめき声とともに途切れた。
「面白くない、本当に面白くない……。そうか、再起。あんたもこの程度の奴だったか……。ああ、やはりくそ面白くない!」
 私は一人で喚いて、再起の首から手を離した。ごほごほと咳き込む再起に、女性が駆け寄り、私をぽかんと見ている。
「貴女、先生になんてことなさるんです?」
「殺す気でやったわけじゃない、そう怒るな。私はただ、失望しただけだ。もう良い、私はここを出て行くよ。そして、もう二度と帰ってこない――さようなら」
 私は手を振り、事務所を出た。
「覆水再起、私はお前を一生恨むよ」
 そう言い捨てて。――前とそっくり同じではないか、と心の中でつっこみを入れながら。
「さようなら美寿寿さん」
 後ろから聞こえてきた覆水の言葉は、やはり前と同じように、のんびりしていた。
「でもあなたはきっと、また私の元に帰ってくるでしょう」
作品名:怪盗・仮初非力の結婚 作家名:tei