小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ひざむらい
ひざむらい
novelistID. 15984
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ファンレター

INDEX|3ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 


水沼健吾様

お手紙拝見致しました。ファンレターというものは一方通行なものとばかり思っていたのですが、驚くことにお返事を書いていただき、大変嬉しく思いました。しかし、私はひねくれているのでしょうか。お返事を書いていただけたのは、仕事がなくて暇で暇で仕方がなかったので、ここは一つ返事でも書いてやろうと思い立って筆を取っただけではないかと思ってしまいます。仕事が忙しいと書いてありましたが、それは嘘だと思ってます。あぁ水沼様、こんなことを思ってしまうわたくしをお許しくださいませ。それと、水沼様のお手紙で一番悲しかったことは、私が水沼様のファンだということを信じてもらえなかったことです。この手紙を受け取ったのは三日前でした。お手紙を拝読した後、母が言うには私は顔面蒼白になり、やがてその場に蹲り、なにやらニヤニヤしながら「私は年増女よ」などとうわ言のように言い始め、精神がおかしくなってしまったのではないかと、家族の連中に心配させてしまったようです。ショックで昨日までは寝込んでいたのですが、ようやく今日は起き上がることができたので、親愛なる水沼様へのお返事をしたためている次第です。そうそう、水沼様は私がオバサンだとお思いのようですが、私は二十四歳です。本当です。どうか信じてくださいませ。水沼様もおわかりのように、水沼様のファン層というのは四十歳以上が多いので、私の周りには水沼様のファンは皆無と言っていいです。いつだったか、水沼様が何を思ったのか突如デザインされた「けんちゃんTシャツ」を、バーゲンの売れ残りで買ったのですが、それを着ていると、友人達に馬鹿にされてしまいました。センスがないと嘲笑されました。確かに、私もセンスがないと思います。Tシャツの真ん中に「け」の文字だけプリントするなんて閉口してしまいます。でも、私の健吾様(もうこれからは健吾様と呼びます)が苦心してデザインされたTシャツですもの、誰が何と言おうと私は着てやろうと心に決めて、夏は毎日着ていました。すると友人達は恥ずかしいと言って誰も私と出かけてくれなくなり、お付き合いしていた恋人からも愛想を尽かされ、寂しい生活を余儀なくされてしまったのです。健吾様も罪なお方ね、ふふふ。あ、恋人と言えば、水沼様の恋愛状況は如何なものでしょうか。デビューしたばかりの時に早々とご結婚されてたと存じていますが、わずか半年で離婚なされ、それ以来、ワイドショーに取り上げられることもなく、そして浮いた噂が流れることもなく、ただひたすらお仕事を頑張ってこられたように思ってます。今ではすっかり頭の方も薄くなり、お腹の方もぽっこりと出てきて、まったく下品で無様な様態を呈していらっしゃるので、とても恋愛をなさっているようには見えません。勘違いしないでください。くれぐれも言っておきますが、馬鹿にしているのではありません。私にとっては好都合なのです。なぜならば、私が健吾様と・・・。あらいやだ、私ったら。これ以上は恥ずかしくて書けませんので、健吾様のご推量にお任せします。
ところで、健吾様のお家に伺ってもいいですか。
 

大橋信子


作品名:ファンレター 作家名:ひざむらい